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21・1バカンスの終わりに

 あっという間にバカンスも終わりが近づいてきた。

 結局、ルクレツィアはジョナサンと何の進展もないままだ。

 ルクレツィア自身の問題もあったけれど、やっぱりジョナサンの可愛い娘好きも障害だった。いつだって女の子を連れているのだから。

 今まで気にしていなかったけど、きっと友達がいないんだな。



 そして別の問題も発生。クラウスと私の距離が近くなった、とルクレツィアに心配されている。リリーにも言われたので、一般的にもそう認識されているのかもしれない。

『三ない運動』は守っている。

 でも原因は私の軽率さだ。ブルーノやラルフと話していることが多いからだ。


 もしかしたら二人とクラウスには、私が婚約者と距離をとろうとしていることに気付かれているかもしれない。追及されてはいないけど、かといって、なぜ二人の元へ来るのかと尋ねられたこともない。

 あと、クラウディアにも恐らく気付かれている。一度困ったような顔で『クリズウィッドはいい夫になるわよ』と言われたもの。それは承知してるんだけどね…。



 ◇◇



 その知らせは父から聞いた。


 夜も更けて夜着に着替えたころ、父が私の部屋を訪ねてきた。恐らくは人生で初めてのことだ。余程のことがあったのだと居ずまいを正すと父は、苦虫を潰したような顔をして告げた。


 クリズウィッドたち三兄妹の母君が亡くなった。彼らは喪に服す。従って婚礼は最低でも半年は延期だ、と。




 母君はしばらく前から病を得ていたそうだ。そもそも修道院に入ったのも、最期の日々を心穏やかに過ごしたいと願ったかららしい。

 それでもまだまだその時ではないと三兄妹も国王も思っていたそうだ。私も、息子の結婚式に参列することを楽しみにしている、と聞いていた。


 思わぬ訃報に三兄妹は失意に沈んだ。


読んで下さりありがとうございます。

本編がちょっと暗いので、お口直しです。


☆おまけの小話☆

☆元修道騎士たちの密やかな楽しみ☆

(ブルーノのお話しです。)


夜半。与えられた部屋で剣の手入れをする。

ひとつの宮殿に敵味方入り乱れて泊まっているぶん、腕力的な暗殺は行われないのではないか、とは若き主人の考えだ。だがあくまで考え。暗殺者に襲われないとは限らないので、気は抜けない。


「そうそう」

隣で同じように手入れの最中のラルフが思い出したように声をあげた。

「今日もアンヌローザ殿が逃げて来た」

「今日もか」

「ああ」


アンヌローザ殿はどうやら婚約者殿との甘い雰囲気が苦手らしい。クリズウィッド殿下は良い方だし、彼女もそれは分かっているようだけど、どうにもならないようだ。二人きりの状況になりそうな時は、俺たちの元へ逃げて来る。


「普通に話していたのだがな、ふとルカの話題になった」

「……で?」

「墓参りしたいとさ」

「……それは難しいだろ?」

「ああ、本人もわかってはいるようだ」

「なぜそんなにルカにこだわる。あいつはほとんど会話はしてないと言ってたぞ」

ラルフはうなずくと、

「会話の量じゃないってことだろうな」

と言う。

そもそも会話手段を筆談に頼っていたルカは、俺たち以外とはろくに話さなかった。本人が面倒くさがったのが一番の理由だ。


「アンヌローザ殿もなかなかの変わり種なのだろうな」

俺がそう言うとラルフは

「ああ、可愛らしいひとだ」

と答える。

「惚れるなよ?」

「惚れるか!」

「まあ、だが、可愛らしいのは、わかる」

シンシア殿も可愛らしいけれど、それとはまた違う。


「今日なんてな」ラルフは笑った。何か思い出したらしい。「サロンからちょろまかしてきたって、珍しい菓子をくれた」

「ちょろまかす? ご令嬢はそんな言葉を使うものなのか?」

「使わんだろう。シンシア殿は言わない」

「餌付けされるな。怒られるぞ」

「分かってる。だが美味しかった」

「食ったのか!」

「あの笑顔でどうぞと差し出されて断れるか!?」

まあ、否めない。

「……美味いと言ったらな……」

ラルフがこちらを見た。

「明日はあんたの分をちょろまかしてくるとさ」

「は?」

「拒めたらあんたの勝ち。受け取ったら俺の勝ち、な」

「なんでそうなる?」

ラルフはにやりと片頬をあげた。

「餌付けされちゃダメなんだろう?」

む……と口ごもる。隣のニヤニヤ顔が止まらない。

「わかった!俺の負けだ!」

「貰う前から敗北か」


笑い声が狭い室内に響く。

「あんただって彼女に弱いくせに!」


本当は彼女が俺たちの元へ逃げて来ないことが一番なのだが。

来てくれることが実はちょっと……、いや、かなり嬉しいことは、ここだけの秘密だ。


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