19・3結果
甘すぎる雰囲気に疲れて船着き場に戻ると、うつ向いて泣きそうな顔のルクレツィアと、困り顔のクラウディア、表情の読めないクラウスが待っていた。ジョナサンの姿は見えない。
何も知らないクリズウィッドが血相を変えて妹に
「ジョナサンに何かされたのか!?」
と詰め寄ったけれど、彼女は首を横に振った。
聞かなくてもわかる。また冷たい態度をとってしまって、自己嫌悪に陥っているのだろう。
私は彼女と手を繋いだ。
彼女が素直になるにはどうしたらいいのだろう。
◇◇
四人で離宮に戻り、クリズウィッド、クラウスと別れて女子だけでクラウディアの部屋に入ると、ルクレツィアから話を聞いた。
ジョナサンは色々と話題を提供してくれたらしい。だけどルクレツィアは『そう』としか返答が出来ず、いつしか会話はなくなり無言のままボート遊びは終了したそうだ。
それでもジョナサンはボートから降りるときに、ちゃんと手を貸してくれた。なのにルクレツィアはありがとうの一言も言えなかったらしい。
更に彼はちゃんとクラウディアが戻ってくるまでそばにいてくれたそうだ。
ジョナサン、やるじゃん。意外にもちゃんと紳士だ。ただの可愛い娘好きじゃなかったんだ。
彼が親切だったぶん、ルクレツィアは自分のダメさに嫌気が差してしまったようだ。
きっと呆れられてしまった、嫌われてしまったと涙を浮かべて落ち込んでいる。
そんなことない、あのジョナサンだもの、とフォローになってないような励ましをクラウディアと二人でして。
だけど確実に恋心は伝わってないよな、と思う。
作戦を立てるよりまずは、ルクレツィアが素直になれる練習のほうが必要かもしれない。
◇◇
ボート遊びでは精神的に疲れたので、一旦休憩しようとクラウディアの部屋を辞した。自室へ向かう途中に通りがかった部屋から、ルクレツィア、との単語が聞こえた気がして足を止めた。
「へえ。アンヌローザに逃げられたから、彼女を狙うことにしたのか?」
今度は私の名前だ。気になってついつい耳を傾ける。声には明らかな揶揄があった。
「第三王女を妻にしたところでどうかな。西翼の姫だ、アンヌローザより価値はかなり下がる」
むっとして、忍び足でわずかに開いている扉に近づいた。
「まあ、俺の従者が見てたけど、散々だったようだ」先ほどの声が続けている。「まったく相手にされてなかったそうだ。体力バカだからボートぐらいしか良いアピールはないのにな。あんなのでも長男ってだけで家を継ぐのだから腹が立つ」
声の主の予測がついた。ジョナサンの弟だ。名前は……忘れた。ゲームには出ていなかったはず。もう一人はきっとルパート・ザバイオーネだ。迎賓館に泊まって毎日遊びに来ている。
二人は同い年で同じ大学で机を並べている親友同士だ。弟は見栄えこそ兄に劣るが、頭脳の方はかなり出来がいいとの噂だ。だがあのルパートの親友だ。親しくなりたいタイプじゃない。
「あいつにゃ姫なんて口説き落とせないよ」ルパートだ。「とっちゃうか」
「いいな。あの姫は顔だけはいい」と弟。「兄貴にはもったいない」
「いつもみたいに二人で狙おう。ポイ捨てにしてやろうぜ」
笑い声がする。上品なのに、気持ち悪い。
ジョナサンのことをずっとバカにしていたけど、弟よりずっとまともないい奴じゃないか。可愛い娘好きだけど、女の子をポイ捨てしたなんて話を聞いたことはない。今日だってツンしかないルクレツィアに紳士的だった。
今まで悪かったな、と反省をする。
彼の名誉のために、
ジョナサンは全然ルクレツィアを狙ってないよー
と言ってやろうかと思ったけれど、やめにした。
彼らは相手にする価値がない。




