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16・2シンシアの手紙

 シンシアからの手紙の一枚目には。


 先日の雑貨店での私の態度に感謝していること。

 お茶会の誘いが嬉しかったこと。

 急な欠席で申し訳ないこと。


 を丁寧に、美しい文字で書いてあった。繊細そうな字だ。


 もしかしたらゲームのシンシアは、この繊細な性格と、引きこもり生活がマイナスに作用して兄の友人ウェルナーにストーカーまがいのことをしたのかもしれない。


 そして二枚目の便箋。

 万が一他人に手紙を読まれた場合を心配したのだろう、ゲームに関する言葉は一切なかったけれど、同じ境遇ならとても心強い、と書いてあった。


 彼女は『運命』(きっとゲームのことだ)を辿るつもりはない。そもそもかの方に興味がない。他の方々にも同様。できれば屋敷から出ず、何にも巻き込まれず、静かに『運命』をやり過ごしたい、と望んでいるそうだ。


 ルクレツィアと私は、とりあえず悪役令嬢仲間が活躍しそうにないことに安堵した。


 だけどできれば情報交換をしたい。


 ルクレツィアと二人で、私たちが無知すぎること、シンシアの知識を授けてほしいことを手紙に書いた。

 それからもちろん、私たちは人の容姿を笑うような令嬢とは親しくしてないことと、シンシアと仲良くしたいことも。



 ◇◇



 手紙をシャノン経由でアレンに渡し、二人きりの対策会議を始める。


 ちなみにゲームとは関係ないことだけど、ルクレツィア情報によると、ブルーノ、ラルフ、アレンの三人が順繰りにクラウスのそばについているらしい。元修道騎士の二人と違い、見るからにただのイケメン従者のアレンに主人の護衛が務まるのかが不思議だ。

 抑止力ということかしら、とルクレツィア。それ以外に考えられないよね。


 ちなみにルクレツィア調べによると、アレンは二十七歳、ラルフは三十四歳、ブルーノは四十五歳だそうだ。

 それぞれタイプの違うイケメンで、王宮の侍女たちに人気らしい。


 幾らゲームの世界だからって、イケメン率が高過ぎだよね。リリーじゃないけど、眼福とは思うけどさ。あんなに美男好きだった私が言うのはおかしいけど、人間、顔じゃない。


 ……まあ、リヒターもイケメンぽいけど。知る前に恋したもんね。


 とにかく。リヒター情報によると、私達が認識していた以上に王宮は複雑な状況にあるらしい。あまり甘くみていると、本当に何かに巻き込まれて悪役令嬢として最悪の最期を迎えてしまうかもしれない。


 そんな中でのルクレツィアの提案には度肝を抜かれた。

 ゲーム開始前に、クリズウィッドと私が結婚するといいと言い出したのだ。

 確かに結婚してしまえば、さすがに主人公も攻略を躊躇うだろうし、婚約よりも解消しにくい関係だ。


 だけど私は全対象で悪役令嬢だし、ルクレツィアの対策にもならない。


 その提案はちょっと効果が薄そうと言うと、ルクレツィアはがっかりしてしまった。


 やっぱり彼女は私がリヒターを好きなことを心配して、そんな提案をするのかな。

 そう考えて、お互いに口数が少なくなっていると、突然私達の天敵クラウスが、案内もなく現れた。


 そして戸惑いながら、

「シンシアは?」

 と尋ねたのだった。


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