16・1悪役令嬢の集い
とにかくなんとかシンシアと話をしたいと考えて、思いきった作戦に出ることにした。
ルクレツィアと三人でお茶をしましょうという誘いの手紙を出したのだ。
もちろん書いたのはそれだけじゃない。
『お互い悪役令嬢回避のために共闘しませんか?』
と追伸に一文添えた。
彼女が前世の記憶持ちなら、きっと何かしらのアクションは起こしてくれるはず。
もし私の勘違いだったら、気味悪がられてしまうだろうけど。
でもそれは杞憂だった。
手紙を送ったその日に了承の返事が来たのだ。これは確実に黒だろう。
◇◇
いつもの西翼そばのパラソルの元。
ルクレツィアと私とでとるに足りない話をして待っていると、アレン・バグナーが侍従の先導でやって来た。彼一人で、シンシアの姿はない。
どうしたのかと首を傾げていると、アレンは深々と頭を垂れた。
シンシアは腹痛のため来れなくなったという。
彼の話によると、シンシアの引きこもりには悲しい原因があるという。子供の頃、他所のきらびやかなご令嬢たちに平凡顔を手酷くあげつらわれたらしい。
この国や隣国シュタルクの社交界には、一月に新成人のデビュー用舞踏会がある。我が国の場合、その年に十六歳を迎える男女が出席できる。
参加は任意で、出なかったから社交界に入れない、ということはない。だけど成人の祝福も受けられ、新成人はドレスコードもある、特別な舞踏会だ。特に女の子にとっては憧れのデビュタントなのだ。
シンシアは今年十六歳で、このデビュタントに出られる権利があった。にも拘らず、不参加だったそうだ。すべては幼少期のトラウマのため。
先日の雑貨店も、クラウスから頼まれてアレンが説得し、店員に他の客を近づけないよう頼んで、ようやく入店できたという。
私は彼女たちのそばで品物を見ていたけどと疑問を呈したら、アレンは苦笑して宰相のご令嬢に物申せる店員がいなかったのでしょうと言った。
だからあのときのシンシアは会話が出来なかったらしいし、きらびやかな令嬢である私が『優しい』ことに驚いたそうだ。
彼女が昔ワガママだったのは、繊細な心の裏返しで、文句を言わない小間使いたちに甘えてきつくあたってしまっていたらしい。
シンシアは私からの誘いをとても喜んでくれているそうだ。
だけど王宮には他のご令嬢たちもいる。それで結局怖さが勝ってしまって、ストレスからの腹痛でダウンしたという。
アレンは陳謝し、シンシアからの手紙を置いて辞した。




