15・1考察
リヒターから婚約の本当の目的を教えてもらってから一週間。自分なりに気になる点を探ってみた。
私も前回の調査時よりやや賢くなって、それなりの成果を得ることができた。
最も疑問だった件。放置しておけばよかったクラウスを迎え入れ、仕事も与えたのはなぜか。それは、単純に濡れ衣を着せて破滅を狙っているだけではなかったようだ。
彼には大きな後ろ楯がいた。出家された先代の王妃様だ。彼の長すぎる名前、クラウス、アルベルト、コーネリアは亡くなった三人の殿下の名前だった。
生まれた時から、先代の国王夫妻の期待とバックアップを受けていたわけだ。
重すぎて気の毒に思っちゃうけどね。
それからもう一人の後ろ楯。こっちがユリウスと父が危険視している本命。先の王妃様の弟だ。
この人物、シュタルク帝国の公爵家に婿入りをしていて、クーデター後に宰相に就任したそうだ。
弟には跡取りがおらず、クラウスが還俗する前から、遠縁の彼を婿養子にしたいとの話が出ていたらしい。
それが実現すると、クラウスはシュタルク帝国のバックアップも受けてしまう。それを力に王位を主張して、彼に奪われてしまうかも……。
というのが、ユリウスと父の危惧するところで、それを防ぐために王宮に呼び仕事を与えたらしい。
シュタルク帝国は強大な国で軍事力もあるけれど、今のところ友好関係を保っている。うちの国が異教徒との戦いで疲弊する中、援軍を送ってくれることもあるぐらいだ。
だけど、いつ、敵になるかはわからない。
もっともクラウスは、シュタルクに行ったほうが身は安全だと思うけど。本人は幼少期を過ごしたこの都に戻りたかったと言っているそうだ。
クリズウィッドと仲良くなったのも裏はなく、権力の中枢から外れた者同士で気が合ったから、らしい。ウェルナーも同様。
だけどそのわりに、父一派とガンガンやり合っている。しかも何故かユリウスは黙認。今まで一派に属さず冷飯を食べてきた貴族たちも、こっそりクラウス派を形成しているらしい。
……こうなってくると、この世界の元となっているゲーム『王宮の恋と陰謀』のタイトルが俄然気になってくる。
この『陰謀』部分だ。
クラウスが一人倒れる分にはいい。ルクレツィアと私は巻き込まないでほしい。できたらクリズウィッドとクラウディアとジョナサンも。
だからシンシアと連絡を取りたいなと考えている。彼女が前世の記憶を持っているいるならば、このゲームについて知っていることを教えてほしい。ルクレツィアと私の情報じゃ、少な過ぎる。
私たちが悲惨な結末を迎えることは分かってるいるけど、詳細は知らない。
悪役令嬢として活躍しなければ大丈夫と考えてきたけど、今の政局を鑑みるとそうも言っていられない気がするのだ。
クラウスに、シンシアと会ってみたいと頼んだけれど、難しいなと言われてしまった。彼女は一切社交をしてないそうだ。この前の雑貨店へのお出掛けは、兄の葬儀以来の外出だったというし。
……たまに。現実逃避をしたくなる。
リヒターが駆け落ちしてくれないかな。幾ら払えば雇われてくれるかな。




