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14・3黒歴史

 ええと、まず。

「どうしてフェルグラート家の内情に詳しいの?」

 以前、クラウスとシンシアのことを調べようとした時には、リリーはフェルグラート家について知っていることは皆目なかった。


 彼女は困ったように眉を下げた。


「新公爵が継ぐはずだった王位を、陛下と父が共謀して簒奪したことなら知っているわ」

 目を見張るリリー。私は余裕を装って笑みを浮かべる。

「だから気にせず話してちょうだい」

 うなずくリリー。

「以前フェルグラート家の使用人は、旦那様の派閥の使用人たちと一切口を聞いてはいけないと命じられていたそうです。それにこちら側からも、気まずさがあったのでしょう。長い間、交流はありませんでした」


 なるほど。


「あちらは代替わりをしてから、自由になったそうです。こちら側も、やはり、美男の当主や従者たちが気になりますから」彼女は恥ずかしそうな顔をした。「なんとなく話すようになったんです」


「そうなのね。でもリリーはあまり機会はないんじゃないの?」

 私があまり社交場に出ないから、彼女が付き添い、他家の小間使いに会うこともない。

「お休みの日は町に出ますから。やはり同じような年頃の娘は、同じようなお店に集まります」


 なるほどなるほど。それで小間使いの横の繋がりができるのか。

 で、最大の気になるポイント。

「シンシア様が以前はワガママだったけれど、お変わりになったというのは何故かしら?」


 先ほどのシンシアは、悪役令嬢になるような人物には見えなかった。

 だけれど以前はワガママで小間使いたちに疎まれるようなご令嬢だったというのたら、予定通りに立派な(?)悪役令嬢になる素質を持っているのかもしれない。


「それは」と曖昧な笑みを浮かべるリリー。「お嬢様がおかかりになった黒風邪にシンシア様もかかられたそうですよ。危篤になられたとか。その後から憑き物が落ちたかのように人が変わられたらしいです」

「黒風邪に?」

 はいとうなずくリリー。


 あの悪質な風邪は大流行して、都に住む庶民の半分が、上流階級でも相当数がかかったと言われている。

 その風邪にかかり熱に苦しんでいる間に、ルクレツィアと私は前世の記憶を取り戻した。


 これはもしかして。

 シンシアも同じパターンなんじゃないの?

 それで性格がガラリと変わったのも説明がつくよね。





 ……仕方ない。思いきって、告白しよう。

 私、自分で言うのはなんだけど、そんなに性格は悪くないと思う。宰相の娘に生まれてチヤホヤされたわりに、真っ直ぐに育った。今はもう引退した乳母のおかげだと思っている。

 彼女はリリーの母親で、今はリリーが私をしっかりと見守ってくれている。


 ただ。前世を思い出す前の私には、どうしようもない大きな欠点があった。それは。


 無類のイケメン好き!!


 ……思い出すだけで、恥ずかしい。

 昔の私はクリズウィッドもジョナサンもお気に入りだった。まだ子供だったのが幸いで、観賞して楽しむだけだったけれど、前世を思い出していなかったら、今頃どの攻略対象にもべったべたにくっついていただろう。クラウスを巡って、ルクレツィアにいらぬ嫉妬をしていたに違いない。

 そして立派な悪役令嬢になっただろう。私が全ての攻略対象で活躍するのは、この欠点があったからに決まってる。




 あぁ、恥ずかしい。

 本当に前世を思い出してよかった。


 長年私付きの小間使いをやっているリリーは、当然昔の私のことを知っているし、というか、観賞するに留めるよう必死に説得してくれていたのは彼女だし、黒風邪以降に、イケメンに興味がなくなったのも知っている。


 だからこそ、リリーは曖昧な笑みを浮かべたのだ。

 そしてルクレツィアも、私の欠点に気がついていたのではないかと思う。



 ……とにかく、シンシアも前世を思い出し、自分が悪役令嬢になる運命と知っていると仮定しよう。それなら彼女がウェルナーのストーカーになることはないのじゃないだろうか。そもそもイケメン従者に夢中みたいだし。


 よかった。


 なんだかよくわからないけど、よかった。肩の荷が降りた気分だ。


 あとはルクレツィアと私が巻き込まれないように気を付ければいいだけ。

 ゲームに関しては、ね。


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