14・1出会い
最近流行っていると噂の雑貨店。貴族のご令嬢たちにはリーズナブルなお値段で、今までにない可愛らしい品揃えだという。しかも店頭販売のみで外商部がないという。そこで私もリリーと二人でやって来た。
もちろん公爵令嬢の服装で、馬車に乗って。
実は先日、リヒターに行ってみたいと頼んだ。即、『俺みてえのが入れる店じゃねえ』と一蹴された。残念。
確かに高級店が並ぶ地区にあり、店構えも重厚だ。だけど店内は噂通り、若い娘向けの可愛らしい品でいっぱいだった。
顔見知りのご令嬢たちも何人かいる。淑やかに挨拶を交わしつつ、リリーと端から商品を見て回った。
すっかり夢中になっていると。背後から、
「お嬢様のお顔にこちらは似合いません」
というセリフが聞こえた。驚きの率直さだ。しかもそれは男の声。入店してから女性しか見ていなかったので、気になって振り返った。
そこにいたのは、赤銅色の髪に意思の強そうな太眉釣り目の超イケメン。タイプは違うけれど、クラウスといい勝負だ。年の頃は20代半ばかな。服装とセリフから、隣にいるご令嬢の従者なのだろう。
そのわりにふてぶてしい表情で、主人にダメ出しをしている。うちの屋敷にはいないタイプだ。いや、普通はいないんじゃないだろうか。ちょっとSッ気がありそうだ。
見すぎてしまったのか、彼と目が合った。さっと会釈される。それに気づいたご令嬢が振り返った。
どこかで見たことがある。
私がそう思うのと、彼女がはっと表情を変えたのはほぼ同時だった。
それから従者説得ご令嬢、従者挨拶リリーと何やらやり取りがあり。最終的に、宰相の娘である私はご令嬢からの挨拶を受けることになった。
だけれどその前に思い出していた。取り立てて特徴のない暗い茶髪に平凡な顔。ご令嬢はシンシア・フェルグラートだ。彼女もまた、悪役令嬢になりそうには見えない。急な展開に困惑しているようで、不安げに目を伏せている。
かろうじて令嬢としての挨拶をしたけれど、それ以上会話を膨らませる気はないようだ。
これでどうしてウェルナーのストーカーになるのだろう?
というか、確実にウェルナーより隣の従者のほうがイケメンだよね。性格は問題がありそうだけど。
ああそうか。だから穏やかなウェルナーに恋するのか。
「申し訳ございません」と謝るイケメン従者。「お嬢様はあまり社交に慣れておりません。失礼な態度をお許し下さい」
挨拶させたのはあなただよね?と思うけど、もしかしたら、当主の友人の婚約者という立場の私を、スルーする訳にはいかなかったのかもしれない。
「お気になさらないで下さい。私も社交は得意ではありません。シンシア様、仲良くして下さいませ」
一応公爵令嬢の私。表面上はそれらしく振る舞うようにしているから、無難な返答をしたのだけど。
シンシアは目を上げた私を見た。
「……お優しいのですね」
気のせいかな。意外そうな顔に見える。
それから無難なやり取りをして、私たちは別れた。




