13・1悪巧み
今日も今日とて、先に来て待っていてくれるリヒター。なんかもう、佇まいがかっこいいよね。顔があれだから気づかなかったけれど、よく見ればスタイルがいい。大きな帽子をとったら、大きな頭が出てくるのかもしれないけれど、少なくとも首から下は、手足が長くて、太ってもおらず痩せてもおらず、程よい肉付きだ。背も高すぎず、ちょっと見上げるけど首が疲れるほどじゃない。
そうか。姿勢もいいんだ。そういえば歩き方もきれいだ。ガサツなのに。町のチンピラのような、オラオラした歩き方じゃない。動作全てがキビキビしている。
……どちらかといえば、町を守る警備隊ぽいかも。
そのへんも信用できると感じたポイントかもしれない。
離れたところからリヒターを観察していたら、目が合った。多分。彼の目は見えないからね。
「おい。そんなとこに突っ立って、何やってんだよ」
「へへっ」
見惚れてた!
小走りで駆け寄る。
今日もリヒターに会えた。それだけで凄く嬉しい。
「……その笑い方、どうにかなんねえのかよ」
「『ご令嬢』やってるときは気をつけてるもん」
「ほんとかよ」
「リヒターの前で淑やかぶったって意味ないでしょ」
好かれるような女性になりたいけどさ。どんな人がタイプかもわからない。いいんだ。こうやって話ができるだけでも楽しいから。
「あのね。料金弾むから相談にのってほしいの」
「またか!」
「まただ!」
「お前、本当は友達いねえんだろ」
「いるよ。だけど誰にも相談できないことなの」
はあぁっと、深いため息をつくリヒター。だってそうなんだもん。だからってリヒターはどうなんだ、とは思うけどさ。切羽つまってるんだよ。
「で、なんだ?」
「優しい!」
ごんっ!と拳で肩を小突かれた。
「へへっ。あのね。内緒ね。……婚約を向こうから破棄してもらいたいの。何かいい案ないかな」
リヒターは足を止め、私を見た。
「……本気で言ってるのか?」
「うん」
だって、どうしても罪悪感が拭えないんだもん。簡単に割りきることができない。それなのにルクレツィアもリリーも、結婚しろと言う。
「……なんでだ? 二番目の王子はまともだって噂だぞ?」
「うん。いい人だよ。私のわがまま。だから向こうから破棄してもらいたいの。こっちからしたら、傷つけちゃうから。そのためなら私、どんな汚名もかぶるよ」
リヒターとどうこうなりたいからじゃない。もちろん、そうなれたら嬉しいけれど。単純に私は卑怯だから、罪悪感から逃げたいだけ。
「周りには相談できないの。みんな結婚推進派だからね。リヒターはさ、部外者だし。頭がいいよね。助けてもらえないかな。料金は倍出すよ」




