12・2判定
いつもどおり孤児院で過ごし、屋敷そばまで帰ってくると、普段着を着たリリーが待ち構えていた。手は前で重ねているのに、なぜか足は肩幅に開いて勇ましく仁王立ち。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
顔は強ばっているし、声も固い。これはリヒターに文句を言うつもりだろう。暗然たる気分でただいまと返事をしてから、リヒターにリリーを紹介する。
「リヒターさん」と彼を見上げるリリー。「経緯はお嬢様から伺っております」
「そうかい」
「失礼ですが、フルネームは」
「……リヒター・バルト」
初めて名字を聞いた!
訳もなく感動!
「お住まいは」
「言いたくねえ」
そうなんだ……。
気分が落ちる。
「ご連絡したいときは?」
「裏町に来て探してくれ……ていうか、なんだよ、尋問か?」
「そうだよね! ごめん!」私は二人の間に入った。「リリーは私が心配なの。ごめん」
だけどリリーは私をまわりこんで、再びリヒターの前に立った。
「あなたのことを調べました」とリリー。
「ええっ! どうやって!?」
「警備隊の知人に尋ねました」とリリー。「裏町地区担当の間では有名なようですね。あまり良い印象ではないそうで」
「……断っておくが、護衛を頼んできたのはあんたのお嬢様からだかんな」
珍しく不機嫌そうな声のリヒター。そりゃそうだよね。
「ねえ、リリー。リヒターは悪い人じゃないの」
「はい」
うなずくリリー。
「……え?」
リリーは私を見た。
「見た目は怪しいし、いい噂はないようですけど、本当に悪い人ならとっくにお嬢様はどうにかなっていると思います。今日のご様子も少し拝見してましたけど、約束の時間より早く来てお嬢様を待っていてくださったし、荷物も持ってくださった、馬車や馬が来ればお嬢様を遠ざけてくださった。振る舞いは、ご立派です」
緊張をしていたのか、リリーは大きく息を吐き出した。
「何より私はお嬢様を信じます」
「リリー! ありがとう!」
さすが私のリリー! 思わず彼女に抱きつく。
「ですが」と続けるリリー。「万が一お嬢様に何かあれば、私は命に替えてでもあなたを断頭台に連れて行きます!」
「怖えなあ」とリヒター。
「ずっとお嬢様がお一人で外出されるのが心配でした。私は残って留守がバレないようにしなければならなかったですし。どうぞお嬢様をよろしくお願いします」
リリーはリヒターに深々と頭を下げた。
リリー! ありがとう! お給金をあげてくれるよう家令に頼むよ!
「……まあ、金を払ってくれる限り、ちゃんと仕事をするぜ」
リヒターはそう言って空のかごをリリーに渡して、じゃあなと去って行った。
◇◇
屋敷に戻り公爵令嬢に戻ると。リリーが私の手を握りしめて言った。
「あの方に護衛をしてもらうのは、構いません。ですがそれだけですよ。どうぞ思いは秘めたままでいてください。クリズウィッド殿下とのご結婚が、お嬢様にとって一番の幸せですからね」




