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11・4アンヌローザの打ち明け話

 私はルクレツィアに隠していたことの全てを打ち明けた。

 前世の記憶を取り戻してから公爵令嬢の堅苦しい生活が嫌で、息抜きのためにこっそり町を散歩するようになったこと。

 一年ほど前から孤児院に出入りしていること。

 強盗に襲われかけたこと。

 怪しい男に助けられ、それ以降毎回彼に護衛を頼んでいること。

 そして、彼を好きになってしまったこと。

 彼は『ひも』をしていること……。


 話終えたときのルクレツィアの顔には戸惑いが浮かんでいた。

 わかるよ。何を言いたいか。


「アンヌローザ」

「……うん」

 彼女は両手で私の手を包み込んだ。

「これから私、酷いことを言うわ」

「……うん」

「お兄さまと結婚をして」

 思わぬ言葉に目を瞬く。

「その方には決まったお相手がいるのでしょう? それならどうにもすることはできないわ」

「……うん」

「最善はお兄さまと結婚することだと思うの。妹の私が言うのもおかしいけれど、あなたのお父様が選んだにしては、良い相手よ。主人公には別の攻略対象を選んでもらいましょう」

 彼女は真剣にそう言っているようだ。


「……だけど申し訳ないの。殿下はお優しいのに、私の気持ちは他の人にあるのだもの」

「優しいアンヌローザ。私はとても利己的なの。あなたにお兄さまと結婚してもらいたい理由が二つあるわ」

「……何かしら」

「ひとつはね、主人公がお兄さまとハッピーエンドを迎えたら、ジョナサンが死んでしまうこと」

「あ……」


 忘れていた。そうだった。しかも、どんな因果関係があるのかわからない。そう考えると、そのエンドを迎えないことが一番の防止策だ。


「それから二つ目はね。お兄さまに幸せになってもらいたいの。私たち兄妹は微妙な立場でしょう。まともな結婚ができるなんて思っていないわ。お兄さまも宰相殿のコマにされるために選ばれたのだと思う。でもね」

 ルクレツィアは手に力を込めた。

「妻があなたなら、気持ちだけは穏やかでいられると思うの」


「……私、まだリヒターに会うの」

「アンヌ……」

「来週もその翌週も、その次も。護衛を頼んでいるし、何よりも会いたいもの。それを隠して殿下の婚約者の顔をしなければならないの?」

「……辛い?」

「辛いわ」


 沈黙が降りる。


 ルクレツィアの言うことは理解できる。

 むしろ私といることでクリズウィッドが穏やかでいられるなんて最高の褒め言葉だと思う。


 でも。


「ごめんなさい」とルクレツィア。「ジョナサンのことを良く言ってくれたあなたにこんなことを言ってはいけないと思ったのだけど……。でも不安なのよ。はっきり言うわ」


 ああ。結局言われてしまうのか。


「その方を信用することはできないわ。私は応援できない」


 親友の言葉にうつむいた。


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