10・2ジョナサンと姫
「あら、お暇?」
クラウディアがそばを通りかかった男に声をかけた。ジョナサンだ。両脇に女の人がいるから、暇ではないだろう。だけど、さっきのクラウスに比べれば淋しいものだ。さぞやプライドがズタボロに違いないわ。
「ご一緒にお話しましょうよ」
クラウディア、雑食だなあ。
まあ、あの軍団に囲まれたクラウスよりは攻略しやすそうかな。
ジョナサンは機嫌の悪そうな目をちらりと彼女に向けた。顔から胸元へと動く。やや鼻の下が伸びた。それからクリズウィッドに。
父の一派のジョナサンは、クリズウィッドに近づくことはなかった。だけど彼は私と婚約をした。かといってクリズウィッドは父と親しくしていない。ジョナサンも、どう対応するか難しい立場だろう。
「昨日、第八師団が不審者を捕らえたのでしょう? その話を聞きたいわ」
クラウディアってコミュ強だ。言われたジョナサンの表情があからさまに明るくなった。
「ふん、聞きたいのなら仕方ない」
嬉しそう。なんて単純な男。
彼の両脇にいた女たちは去って行き、ウェルナーが給仕から受け取ったワイングラスを彼に差し出した。
ジョナサンはそれを受けとると、たいした事件でもなさそうな捕り物の話を、クラウディアとルクレツィアと私に向かってした。
まあ、考えていたよりかは話上手だ。リヒターほどじゃないけど。
……ああ、またリヒターのことを考えちゃった。
そっとクリズウィッドを見る。話を聞いている素振りをしているけれど、目は広間内に向けられている。状況を観察しているようだ。
一方でウェルナーは笑みをたたえてジョナサンを見ているけれど、バカな子を見守る父親にしか見えない。なぜだ。年の差は八つだけなのにな。
話をふったクラウディアも、顔はジョナサンに向いているけれど、退屈そう。なんで?
ルクレツィアも退屈なのか視線を落として微妙な表情をしている。
ジョナサンが話を終えるとクラウディアは、さすが師団長!とテキトーな褒め言葉で称賛し、
「お暇ならルクレツィアと踊ってさしあげてね!」
と早口で言い残して、風のように去った。残された私たちは唖然とするばかり。より良い獲物を見つけたのだろうか。
「ええと、ルクレツィア」戸惑い気味のジョナサン。それでも「一曲どうかな?」と彼女を誘った。
対してルクレツィアは。
「申し訳ありませんが、足を痛めておりますのでご容赦くださいませ」
淑やかに断った。そりゃジョナサンみたいな男と喜んで踊るなんて思われたくないもんね。
「そうか。では僕も、これで」
と去るジョナサン。
それからは、時たまクリズウィッドやウェルナーの友人が会話に加わるくらいで、夜中まで四人で楽しく過ごした。
ルクレツィアは私を案じているけれど。ゲーム展開の不安さえなければ、いや、その危険を冒しても兄と結婚してほしいと思っている。そうすれば私たちはずっと仲良くしていられるから。
彼女は、時折私と兄を見比べては、会話が弾んでいることに嬉しそうな顔をした。
とてもではないけれど、他の男の人を好きになってしまったとは言えそうにない。
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今月中は21時22時の2回アップにします。
脇役を出してしまいたいので。
展開が遅くてすみません。




