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10・1勢揃い

 久しぶりの舞踏会。というかクラウスが初お目見えした舞踏会以来の出席だ。

 私はあまり晩餐会や舞踏会が好きではないから、たまに王宮のものに出席するくらいなのだ。

 今回もクリズウィッドがエスコートをしてくれている。


 だから、ちょっと心苦しい。


 親が決めた婚約だし、お互いに恋愛感情はないと知っている。

 だけどクリズウィッドとは元々親しい。この人となら、結婚してもいいとお互いに思っていた。

 だから、どことなく彼を裏切ってしまった気がしてしまうのだ。


 私はリヒターが好き。

 実は気のせいだった、なんて可能性をあれこれ考えてみたけど、ダメそう。

 リリーにも、それは完全に恋ですと言いきられてしまった。


「なんだか今日は元気がないね」

 とクリズウィッドが私にグラスを渡しながら言う。

「そうなの。アンヌったらため息ばかり」

 と隣に座るルクレツィア。クリズウィッドは彼女にもグラスを渡す。

 両手の空いた彼に、クラウスがワインの入ったグラスを渡す。


 その後方にはこちらをチラチラみるご婦人・ご令嬢軍団。

 ルクレツィアと私は先読みをして、飲み物はクリズウィッドから欲しいと予め頼んでおいた。正直に、女の嫉妬が怖いからと話して。

 その時のクリズウィッドは苦笑していたけれど、あの後方軍団の視線を見て、私たちの言い分は大袈裟ではなかったと分かってくれたようだ。


 ついでにその男を連れて、どこかに行ってくれないかな。


「何かあったのかい?」

 と私に尋ねるクリズウィッド。

 半分はあなたのことよ、申し訳ない!とは言えない。仕方ないので嘘をつく。

「いいえ。今日はコルセットの締め付けがキツすぎるの」

「まあ」

 と頬を染めるルクレツィア。同じ転生者とは思えない可憐なお姫様っぷりだ。


 小さく吹き出したのはクラウス。

 あなたは笑わなくていい!

 頼むから私に目を向けないで!

 話しかけちゃダメだからね!と念じる。


 ……でも笑うと意外にも人懐っこい顔になるんだ。ゲームだと常に澄ました顔のイメージだった。

 これはギャップ萌えだぞ。まずいかな。


 ルクレツィアを見る。目が合う。

 同じことを考えていたのかも。お互いに笑みがこぼれる。小声で大丈夫よ、と言い合う。


「何が大丈夫なんだい?」

 とクリズウィッド。そこはスルーしてよ。耳敏いなあ。

「内緒よ、兄さま」

 可愛らしく微笑むルクレツィア。


 そうか。私は大人の魅力もなければ、可憐さも可愛らしさもない。せめてそのくらいあれば……。


 いや、今はそんなことは考えない。目の前にクリズウィッドがいるのだから。

 そのクリズウィッドが、あ、と声と片手を上げた。

 視線をたどると、ウェルナー・ヒンデミットがこちらに歩いてくる。


 いつの間に親しくなったんだ。


 またしてもルクレツィアと視線を交わす。

 クラウスが登場してからまだひと月ほどだ。展開が早すぎる。とにかく三ない運動でしのぐしかない。


 クリズウィッドが紹介すると、いつもの柔和な笑みを浮かべたウェルナーは、お近づきできて光栄ですと言った。


 その途端、稲妻に射たれたかのような衝撃が走った。

 なんて良い声!

 前から良さそうだなあと思ってはいたけれど、そばでしっかりと聞いたのは初めてだ。

 美しいテノール! めちゃくちゃ好みど真ん中!

 てか、すっかり忘れていたけど!

 前世の私は声フェチで。ウェルナー推しだったのは、声が最大の理由だった!

 声優さんの大ファンだったのだ!

 まずい、鼻血出るかも。


 と、膝の上に手が乗った。

 見ると手の主、ルクレツィアが可愛らしい笑みを浮かべて私を見ている。


 急に現実に引き戻される。

 危ない危ない。目がハートだったかもしれない。

 ありがとう、との気持ちを視線にこめる。


「ヒンデミット男爵、本日奥様はお連れにはなっていらっしゃいませんの?」

 とルクレツィアは彼が未婚だと知っているくせに、そんな質問をする。凄いな。

「彼はまだ独り身だよ」とクリズウィッド。

「不甲斐ないばかりに」と変わらぬ笑みのままのウェルナー。

「そうでしたか。失礼しました」とルクレツィア。「てっきり私たちにも新しいお友達が出来ると勘違いをしてしまいました」

 ルクレツィア……。暗にウェルナーには興味ない、奥さんと友達になりかったのよっていう主張? 上級者レベルの三ない運動だよ。


「ねえ、クラウス様」

 聞き慣れない声にはっと気づくと、クラウスの周りにわらわらと軍団がやって来ていた。勝手に右も左も腕を絡められている。

「そろそろあちらでお話しましょう」

 寄せ集まった香水の匂いが強烈だ。彼は鼻がひん曲がらないのかな。

 クラウスは、では失礼と、表情のない顔で私たちに頭を下げて去って行った。


「お前が来た途端だ」と含み笑いのクリズウィッド。

「手ぐすねひいて、機会を待っていたのでしょうね」とウェルナー。

「本当におもてになるのね」とルクレツィア。「兄さま。お願いした通り、私たちが逆恨みされないように気をつけて下さいね」

 うなずくクリズウィッド。

 ウェルナーは察したのか、大変だと小さな声で言って苦笑した。


 そこへクラウディアがやって来て兄の隣に並んだ。

「誰が本命かわからないから困るのよ」

 胸と肩が大きく開いたセクシーなドレス姿だ。

「おや、出遅れたな」

 クリズウィッドのからかいに、彼女は肩をすくめた。

「出遅れた訳じゃないのよ。早々に取り巻きにワインをかけられたから、着替えてきたの。さっさと本命なり遊び相手なりを決めてくれないから、女の争いが凄いのよ。多少絞りこんでくれないと着られるドレスがなくなるわ」

「なるほど」とクリズウィッド。「毎日よくやるよ」

「「毎日!?」」

 ルクレツィアと私の声が重なる。クラウディアが笑った。

「毎日昼も夜も彼の周りは戦状態よ。何人の女がワインやらお茶やらをかけられることか。サロンなんて長椅子と絨毯の被害が酷すぎるから、閉鎖するって話もあるくらいよ」

「それは大変だ」

 と苦笑いのクリズウィッド。


 サロンは王宮の出入りを許可されている者なら、いつでも入室可能の部屋で社交の要の場所だ。宮殿内に幾つもあるけれど、メインは国王がお気に入りの蝶の間だ。私はあまり入ったことはない。


「まあ、私も参戦するけどね」と涼しい顔のクラウディア。「やられたら、やり返すもの! でも本当に、本人が優しくする女が日ごとに替わるから大変なのよ」

 ルクレツィアと顔を見合わせる。ゲーム通りのキャラ、ってことか。


 今のところクリズウィッドとクラウスはゲーム通り。ジョナサンは下方修正。じゃあウェルナーは?


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