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番外編・すてきな女子会

 エヴァンス邸のサロン。ファブリック類は柔らかな色調のものでまとめられ、窓からはいっぱいの光が差し込み、ホストのイメージにぴったりな部屋だ。


 ホストとはつまり、私の親友ルクレツィア!

 ここの調度品はジョナサンの希望で、結婚前にルクレツィアが選んだらしい。『妻に気持ちよく過ごしてほしいから』だって。なんて素敵なノロケなんだろう。

 あのジョナサンがこうも変わるとは、驚きだよね。


「ささ、お茶の準備も整ったことだし。デートの顛末を聞かせてもらうわよ!」

 目をキラキラさせながらそう言ったのは、もうひとりの親友シンシア。

 今日は元悪役令嬢三人が集まってのお茶会なのだ。


 テーマはもちろん、ルクレツィアのデートについて。結婚して王女ではなくなった彼女は昨日初めて、警備少なめ・ジョナサンとふたりきりの世界(以前に比べれば)という素敵なデートをしたのだ。 


「で? どんなデートだったの?」

 と、私が尋ねると、ルクレツィアは頬を緩ませながら、

「街ブラしてから、シェーンガルテンに行ったの」と答えた。

「んん? それってアンヌとクラウスのデート風お出かけと同じコースね」とシンシア。

「ええ」とルクレツィアがうなずく。「たまたまなんだけどね。本当に街中でカードゲームで遊ぶご老人たちっているのね。感動したわ!」

「「そこ!? ジョナサンじゃなくて」」とシンシアと私の声が重なる。


「もちろん、ジョナサンにもたくさん感動したわよ。とっても素敵だったもの!」

「うわあ! うらやましい!」と声を上げたシンシア。「もっと詳しく!」

「えっとね」とルクレツィアが私を見た。「ゲームの対戦を見ていたら、ジョナサンがやらされることになったの」

「ふむふむ」とシンシア。

「ご老人が『ここにはよく公爵様もやりに来るんだ』って言ってたわ」

 あそこか。思い当たる場所がひとつある。初めてシェーンガルテンに行った日に、寄ったところだ。クラウスは彼らの雰囲気がとても好きらしくて、よく訪れている。


「でね」とルクレツィア。「ジョナサンが『そいつは僕の友達だ』と自慢したものだから――」

「「だから?」」と、またシンシアと私の声が重なった。

「ご老人たちが『あの公爵にはいつも勝ち逃げされているんだ。代わりに貴様の有り金全部をとりあげてやる』ってヒートアップしちゃって」

「あ――」すごくわかる。クラウスは毎回独り勝ちだもの。でも。「一応、あそこではイカサマはしていないって」

「「え!? イカサマができるの!?」


 ルクレツィアとシンシアが目を見開く。

 しまった。うっかり余計なことを言っちゃった……。


「ごめん。内緒ね。ほら、クラウスって情報収集で、あやしげなところに出入りしていたから」

 ちなみに、いかさま方法を伝授してくれたのはブルーノらしい。ラルフも、あんなにお堅くて真面目なのに、できるとか。


「……驚きだわ。公爵って普通にしていると、不正なんて絶対しなさそうに見えないのに」とルクレツィア。

「あら、二面性があって、ものすごくいいわ!」とシンシア。「まあ、クラウスは二面性だらけだけど」

「本当。あの切り替えってすごいわよね。――ルクレツィア、ジョナサンはどうなったの?」


 私が尋ねると、彼女はフッと力が抜けたような笑みを浮かべた。


「大敗! それで、『ルクレツィアにカッコいいところを見せたかったのに』としょんぼりしてしまって」

「「まあ、可愛い」」

「結局、ご老人たちが慰めてくれて、お酒をごちそうになったのよ。とても楽しかったわ!」

「ルクレツィアも飲んだの?」

  元王女様なのに、下町のものに抵抗がなかったの?

「ええ。だってアンヌたちもいつも楽しんでいるのでしょう? あまり好みの味ではなかったけど、すごく嬉しかったわ」と可愛らしく微笑むルクレツィア。

「いいなあ! エドは絶対に飲ませてくれないわ」と、シンシアがため息をつく。


「そういえば」私はシンシアを見た。「シンシアもエドとデート中に、カードゲームの場に遭遇したことがあったわよね?」

「ええ。『見ていきましょうよ』と誘ったら、エドは『人がやっているのを見て、なにが楽しいんですか?』と言ったのよ」

「「彼らしいわ……」」

「それでも足を止めてくれたのだけど、ほら、エドって興味ないことには徹底的に冷ややかな態度をとるでしょ? それでご老人たちが居心地悪くなっちゃって。申し訳ないから、すぐに撤退したわ」


 そうだった。以前聞いたときも、エドらしい強烈なエピソードだと思ったのよね。


「でも確か、お邪魔したお礼として、居合わせた人全員にエドがお酒をふるまったのよね?」

「ええ。クラウスが言うには、たぶん私の評判がさがることを危惧してのことらしいわ。彼ひとりだったら、絶対にそんなことはしないって」

 シンシアの頬がほんのりと赤く色づいている。


「彼ってわかりにくいけど、シンシアに夢中よね?」とルクレツィアを見る。

「本当! ツンデレの見本のようだわ」

「問題は私にはツンしか見せてくれないことなのよね」と苦笑するシンシア。「デレは私以外のところでやっているのだもの」

「「否定できないわ」」

 本当、エドって一番性格が厄介だと思うわ……。


「でも」とルクレツィアが人差し指を頬にあてる。「シンシアが別の男性に興味を示したら、彼って血相変えて相手を潰しにかかると思うの」

「確かに!」

「そうかしら?」シンシアの頬が嬉しそうに緩む。

「その点」とルクレツィアは私を見た。「公爵は、『アンヌがそれを望むなら』と血の涙を流しながら、身を引きそう」

「わかる――!! クラウスってそういうところがあるのよね!!」俄然元気になったシンシアが身を乗り出す。「で、ブルーノとラルフが、相手の男をこっそり始末するの!」

「やりそう!」

 あの二人は私から見ても、とてもクラウスを大切にしていると思うもの。躊躇なく行動に移しそうだわ。


「え、待って」と動揺した様子のルクレツィア。「それならお兄様は、とても危険な立場だったということ?」

「それは大丈夫。クリズウィッド陛下はクラウスの親友だから。そこには手は出さないはずよ」シンシアが自信満々に答える。「それよりこのケース、ジョナサンだったらどうなるかしら?」

「そうね」


 かつては残念イケメンだったジョナサン。いまではすっかりルクレツィア一筋だけど、あまりに変わりすぎているから予想がつかないわ。


「たぶん」と口火を切ったのは、ルクレツィアだった。なぜだか恥ずかしそうにしている。「『僕の愛情と魅力を伝えきれていなかったのかな』と言って、すごくアピールすると思うわ」

「「まあ、ノロケね。ごちそうさま!」」


 三人で笑いあう。

 お茶会はまだ始まったばかり。今日はまだまだ、楽しむわよ。


《おしまい》



Renta!様で、電子書籍の配信が始まりました。

https://renta.papy.co.jp/renta/sc/frm/item/383901/

詳細は活動報告をご覧ください。


《ゲームエンド後の時系列》

本編・「悪役令嬢になった訳」

番外編「リヒターの変装道」

番外編「クラウスの美味しいチョコの食べ方」

番外編「キスとジョナサン」

番外編「怯える王子」

番外編「ウラジミールの幽霊」

本編・「エンド半年後」

番外編「エドの家族と初対面」

番外編「パン屋の弟子と警備隊員の日常」

番外編「14歳の王女」

(アンヌとクラウス婚約)

番外編「元修道士と息子」後半

番外編「秋祭り」

番外編「シェーンガルテンでデート」

番外編「狭量クリズウィッド」

番外編「警備隊員の幸せ」

番外編「堅物ラルフ」前半

番外編「エヴァンス邸」

番外編「すてきな女子会」←このお話

番外編「堅物ラルフ」後半

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