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裏話・親友とお茶を飲むクリズウィッド

『9・3失恋』と『10・1勢ぞろい』の間に入る、クリズウィッドのお話です

 惚れ惚れするような美しい所作でティーカップを置いたクラウスは、

「そうだ。お前のアドバイスどおり、彼女に果実の盛り合わせを送ったぞ」と言った。

「ああ」と、とりあえず一言だけ答えて、うなずく。


 一昨日クラウスの従者が原因で、アンヌローザが倒れたときの件だ。その後珍しく顔を強張らせたクラウスは、私に『詫びの品はなにを送ればいいだろう』と尋ねてきたのだ。私はアンヌローザは物に頓着するタイプではないから、無難に果物か菓子がいいと勧めた。

 この顛末を伝えるか少しの間だけ迷い、結局正直に伝えることにした。


「それなんだがな、どうやらラムゼトゥール公爵が丸ごと窓から投げ捨てたらしい」

 クラウスがフンッと鼻で笑う。

「小者だな」

「元々狭量な男とはいえ、相当お前に苛立っているようだ」

 クラウスはまた、鼻を鳴らした。


 一見、優雅な優男に見えるクラウスだが、中身はなかなかに苛烈だ。自分より身分が上の国王には敬意を払うが、それ以下――つまり同じ公爵位にあるラムゼトゥールやその一派には相応の態度を取る。相手が敵意を向けてくれば、同じように、いや倍にして返すのだ。

「面白い見ものではあるが、身辺には気を付けてくれよ」

「案ずるな。聖リヒテンの精鋭が守ってくれる」

「それなんだがな」


 なんとはなしに、廊下への扉に目を向ける。部屋の外には元修道騎士が待機しているはずだ。いかにも騎士らしい体型と眼光を持つ男だ。だけど私は、彼が剣を握っている姿を見たことがない。


「アンヌローザの話を聞いて、安堵したよ。本当に実力者だったんだな」

 クラウスがわずかに眉を寄せた。気分を害したようだ。


「精鋭だと説明しただろう?」

「だが、そんな騎士を修道騎士団が簡単に手放すとは思えなかった」

「ああ」と彼は得心したらしく、うなずいた。「それは異教徒とは事実上停戦状態だからだ。それに彼が彼女に語ったとおり、仲間を亡くしたことも大きいらしい」

「そうそう、それを聞きたかったんだ。お前は『ルカ僧』に会ったことがあるのか」


 その死に、アンヌローザは倒れるほどのショックを受けたのだ。どんな僧だったのか、気になる。だがクラウスは、

「ない」と素っ気なく答えた。

「そうか。どんな男だったのだろう。――いい男だったのかな」

 クラウスは不思議そうな目を私に向けた。


「彼女から聞いていないのか」

「思い出させては可哀想な事件だったからな。私からはなにも」

「いい男はお前だよ。あの国王の息子とは思えない」と言って、彼は表情を緩めた。近寄りがたい美貌が一気に親し気なものに変わる。

 その評価が嬉しいような、ありがたいような、申し訳ないような、複雑な気分になる。でも彼は気づいた様子はなく、話を続けた。


「ルカ僧は火事で焼かれた顔を隠し、口もきけなかったとか。だから彼女も余計に気に留めていたのかもな」

「なるほどね。アンヌローザは優しい子だ」

「……そのようだな」

「ラムゼトゥールの娘ではあるが、仲良くしてやってくれ」


 ふたたびティーカップを手にしたクラウスが、それ越しに私を見つめた。いささか眼差しが暗くなった気がする。


「もしかして彼女を気に入らないか?」

「まさか」クラウスは短く否定すると、優雅にカップに口をつけた。


 飲み終えると彼は、言葉が足りないと思ったのだろう、空のカップを見つめながら

「お前の妻になるのなら、どのような令嬢だったとしても、友人として節度を持って対応するさ」と告げた。


 そして私に視線を合わせると、『任せろ』と言わんばかりに美しく微笑んだ。

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