おまけ小話50・1シンシアvsアレン
亡霊騒動の頃の話
☆シンシアvsアレン☆
(シンシアの話です)
ちらりと目前でお茶を淹れているアレンを盗みみる。
ニンナが風邪でダウンし、彼女の代わりに今日はアレンがおやつ係りだという。
この好機に、前々から温めていた計画を今こそ!実行に移すのだ。
「ねえ、アレン」
しまった、声が上ずった。アレンは変な生き物を見るような表情で私を見た。
「どうぞ、お茶です」
差し出されるお茶。
「あ、ありがとう。あのね、アレン」
「なんですか?」
ああ、この不遜な態度。どっちが下の立場かよくわかる。いや、負けてはダメだ。
「シェーンガルテンに行きたいの」
よし、言えた!
「シェーンガルテン?」
と繰り返したアレンは眉間にシワを寄せて
「行けばよろしい」
と素っ気なく言った。
うっ、と胸に痛みが走る。
ああ、アンヌローザの優しい想い人が羨ましい。同じ片思いでも、この差だもの。
「あのね、この時期は池でスケートが出来るのよ」
それはシェーンガルテンの風物詩と言われるぐらいに有名らしく、貴族や上流階級でも愛好者が一定数いるという。
私は行ったことはないけれど、前世では大好きだったから、いつかはと思っていた。
だから二つの夢を叶えるために勇気を振り絞ったのに、アレンは
「そうですか」
とつれない。
泣きそう。
「クラウスに尋ねたら、あなたたち三人の誰か一人を連れてなら、行ってもいいと許可をしてくれたの」
「なるほど」
この許可、ひと月以上前にもらっている。だけど私が勇気が出なくてアレンに言い出せなかった。クラウスには、いつ行くのかと問われては、気の毒そうな顔をされる、というやり取りを何度もしている。
「ブルーノとラルフは最近とくに忙しそうだし、アレンはどうかしら?」
段々小さくなる声。ちょっと震えてしまった。
アレンの視線が冷ややかだ。
「私ならヒマだ、ということですか」
「そんなつもりではないわ」
だめ、泣きそう。
「わかったわ、ラルフに頼む」
「あの筋肉バカの堅物にスケートなんて出来ないでしょう」
おや、と思い顔を上げる。
「聞いてないかしら。この前クラウスたち三人で遠乗りに行ったでしょう? その時にスケートをして、みんなマスターしたそうよ」
アレンの眉間にシワができる。仲間外れにされた、なんて考えるタイプじゃない。どうしたのだろう。
だけどとりあえず、
「だからラルフに頼むわね」
と話を終わりにして、カップを口に運んだ。
美味しい。
うちに来たばかりのころ、三従者が淹れるお茶のまずさは、破壊的だった。
そこからみんな努力して上達したけれど、アレンは群を抜いている。
卓上に用意されたお菓子も、美しく盛られている。他の二人じゃこうはいかない。
アレンは意地悪でドSだけど、こういうセンスはある。そのセンスを私に披露してはくれる。それだけで我慢しないといけないようだ。
「わかりました」
と冷ややかな声。無言でうなずく。
私もアンヌみたいにデート(風のお出かけ)をしたかった。
「いつ行きますか」
「ラルフに都合を聞いてみるわね」
「ラルフは結構」
「だってクラウスに皺寄せがいくのは悪いもの。彼の休みに合わせるわ」
「ラルフに頼む必要はありません」
お菓子から目を上げてアレンを見る。仏頂面は変わらない。
「明日にしますか?」
ゆっくりと瞬く。
これは、アレンが一緒に行ってくれるということだろうか。
それとも私の行きたい日に空いている人を行かせる方式なのだろうか。
確認したい。けど『アレンが行ってくれるの?』なんて尋ねて、またブリザードのような目で見られるのも嫌だ。
「明日でいいですね」
アレンは勝手に決めると、必要な物を確認してくると言って部屋を出ようとした。
「待って!」
「なんですか」
ああ、結局ブリザードのような目で見られてしまった。負けるな、自分。
「……アレンが一緒に行ってくれるの?」
「ラルフもブルーノもしばらく仕事が詰まってますから」
そう言ってアレンは今度こそ、部屋を出て行った。
もう一度ゆっくりと瞬いて。
それから
「夢かしら!?」
と頬をつねってみた。
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