おまけ小話49・3モブ君の考察
平和な後半戦(新年)のころの話
(モブ君の話)
「どうかしたか?」
そう声をかけられてはっとする。
幼なじみで同僚のウィルが俺の視線を辿っている。
「いや、お前のリリーの友達と裏町のリヒター・バルトがいただけだ」
もう見失ってしまったが。
ウィルはあからさまに顔をしかめた。リリーの名前を聞かされたからだろう。
あれだけ彼女の前で仕事の話はやめろと忠告したのに、リリーの友人に要らぬことを言うからフラれるのだ。
確かにリヒター・バルトは裏町担当の警備隊の中では有名で、不審な男だ。悪い噂も多い。真面目なウィルからしたら、そんな男と親しくするなんて、道を誤っているとしか思えない愚行だろう。
なんとか親交をやめさせないと、と考えるのもわかる。だが、言い方というものがあるのに。
結局ウィルは、また真面目が命取りになって、失恋してしまった。
「どっちに行った?」とウィル。
「何が?」
「彼女とリヒター・バルトだ。追いかけよう。何かまずいことになったらいけないだろう?」
「うーん」
クリスマス・イブに二人に会ったことを思い返す。
「大丈夫だ、多分」
「なぜだ」眉を寄せるウィル。
「…………警備隊の勘?」
「なんだそりゃ」
「いや、もて男の勘」
言い直すと、ウィルは
「ムカつく奴」
と笑った。
ウィルは真面目な性格が災いして上手く恋愛できないが、ぶっちゃけたところ、ウィルも俺も見た目はいいのでかなりモテる。たいていの女の子は俺たち二人を前にしたら浮き足立つのに、彼女は全くそんなことはなかった。
それなのにリヒター・バルトといる彼女の楽しそうなことといったら。どう見ても奴に惚れている。
だがあの男は全く気付いていないようだった。そのくせ彼女のことを大切にしている。売れっ子高級娼婦のヒモのくせに。
おかしな関係だ。
だが心配するようなことはなさそうに思う。
「だがもし彼女に何かあったらリリーに顔向けが……」
「もうフラれたんだから、顔向けも何もないだろう」
「いや……」
ウィルの目が泳ぐ。
「まさか、まだ謝りに行ってないだろうな!」
「その……」
歯切れが悪い。
「おい! 警備隊員がストーカー化してどうするんだ! クビになるぞ!」
「いや、リリーはちゃんと話を聞いてくれている」
ウィルの言葉にぞっとした。
もし、こいつの思い込みだったら大変だ。
「本当だぞ! 俺は真面目すぎて融通が利かないというか、他人の気持ちに鈍いところがあるみたいだろ?」
「『みたい』じゃなくて事実だ」
「……だからだな、俺のそんな欠点を直してもらえないか頼んだ。この前」
「また他力本願だな。お屋敷の小間使いって、そんなにヒマじゃないだろ」
「……生涯にわたって大切にするから、俺を変えてほしいって言ったんだよ」
ウィルをまじまじと見る。
「……プロポーズ? フラれてるのに?」
「ていうか、フラれてないから。まだ告白してなかったからな」
「そりゃ詭弁だろ!」
「でも考えてくれている」
「嘘だろっ!?」
顔面にバッグを食らったのに!
「上手くいったら、結婚式に出てくれよ」
「気が早すぎ」
「だからリリーの友達、心配になるだろう?」
二人が消えた雑踏を見る。
「……まあ、大丈夫だ。きっと」
裏町の人間だって、恋することはあるんだろう。
それきっかけで裏町から足を洗えば、めでたしめでたしになるかもしれない。




