おまけ小話43・1元修道騎士のよろず相談
ゲームの強制力(ワイズナリー事件)の頃の話
(ブルーノの話です)
ひとりでコップに酒を注ぐ。
相棒は若い主人と出掛けている。今夜はどこかへの泊まりだ。二人部屋でひとり、酒盃をあおぐのは淋しいが仕方ない。アレンは屋敷にいるが、俺の部屋に来る暇があるなら、シンシア殿の元へ行ってほしい。
トン、トンと軽快に扉を叩く音がした。どうぞと答えれば、顔を見せたのはシンシア殿の小間使いのニンナだ。
「ブルーノ。また、相談をいいかしら?」
「もちろん」
俺は立ち上がるとナイトテーブルの上に水差しと一緒に置いてあるコップを取った。
ラルフのイスにちょこんと座ったニンナに酒で満たしたコップを渡す。彼女はありがとうと言って口をつけた。
ニンナは二十歳。父親は三十九だというから俺より若い。俺の息子(自称)のラルフが三十四だから、ニンナからしたら俺は『おじいちゃん』かもしれない。
そんなじいさんに、彼女は時々相談をしにくる。ラルフのいない夜に。
内容はいつも同じ。どうしたらアレンがシンシア殿に振り向くか。
彼女もシスコン気味の当主が、妹と従者の恋の成就を願っていると知っている。どうにかしてツンデレ(ニンナがよく使う言葉だが、未だに意味が飲み込めない)のアレンに、シンシアとの距離を縮めてほしいらしい。物理的なゼロセンチでもいいから、と。
なかなかに過激な発言だ。
だからこそお堅いラルフがいないときを狙って来る。
彼女は酒を可愛く飲みながら、いかにアレンがドSでシンシア殿を翻弄しているか、熱弁をふるう。
だがあいつはきっと、あれが通常運転なのだ。人前では控えているが、実は若き主人にだって容赦がない。むしろもっとドSだ。
若き主人はあんな派手な外見と生活のわりに実のところは真面目だから、おとなしくアレンのムチに耐えている。なかなかに面白い見ものだが、これについてはトップシークレットなのでニンナに教えることはできない。
彼女の話にうんうん頷いて、アドバイスを求められたら答える。
……というか、三十年も修道騎士で恋愛沙汰に縁のなかった俺がするアドバイスが、的確なものなのかは不明だ。
それでもニンナは相談に来るのだから、役には立っているのだろう。
多分。
「……で。今日のシンシア様・アレン相談は終わり」
とニンナは言って、コップをテーブルにコトリと音を立てて置いた。
「……次に行ってもいいかしら?」
はにかみ顔のニンナ。
三十年、俺は神と民、それから息子(自称・仮)のために戦い生きてきた。それが生きることの全てだと思っていた。
だが。
こんなに小さくて柔らかくて可愛らしい女の子に頼られるっていうのも、なかなか悪くない。むしろ素晴らしい。
「もちろんだ」
俺は笑顔で返答して、コップを置いた。




