おまけ小話41・〔閑話〕議題は妹たちの恋
王子と公爵と男爵のあとの話
☆おまけ小話・議題は妹たちの恋☆
(クリズウィッドのお話)
「それにしても、シンシア殿のデビューがうまく済んで良かった」
ウェルナーが雰囲気を変えようとクラウスの妹の話を出した。この男は見た目に反してシスコンだ。今も途端に表情が柔らかくなった。
「本当に昨日はよく頑張った。初めて会った頃はウラジミールを亡くしたばかりだったこともあって、かなり暗くてな。私の身を案じてばかりいるのに、一緒に王宮へと誘っても断固拒否だったものだ。それがあんなにたくましくなって」
感激に胸を熱くしている様子のクラウスに、一応
「女性に『たくましい』は喜ばないと思う」
と告げる。
そうか、と素直にうなずくクラウス。
「立派になって」
と言い直した。ウェルナーが吹き出す。
「目線が親だぞ」
「悪いのか」とクラウス。
「悪くはないが、お前のイメージではない」とウェルナー。
「そうだな」と私も同調する。
クラウスは私たちや妹たち以外の人間の前では、感情をあまり顔に出さない。整い過ぎている美貌なぶん、酷く冷淡な印象を与えるのだ。
「だが彼女がよく頑張ったのは事実だな」とウェルナー。
「だろう?」と嬉しそうなクラウス。
「ドレス姿もなかなか良かった。彼女の雰囲気をうまく活かしていたな。素晴らしいセンスだ」
私がそう言うとクラウスは、
「秘密だが、あれは全てアレンの見立てだ」
と言った。
「アレン? 従者の?」
「そう。あいつは芸術方面に秀でているようだ。私の服を毎日用意しているのもあいつだしな」
「なぜ秘密なんだ?」とウェルナー。
「さあ? シンシアを意識してのことならいいのだが」とクラウス。
この男は妹が従者に恋しているのを、全面的に応援しているらしい。身分差を気にしないようだ。
「そういえば」ウェルナーが珍しくにやりとした。「そちらの妹君はついに進展しましたね」
「クラウディアか」思わずため息をつく。「あんな子供に手を出すから厄介なことになるのだ」
「だがルクレツィアに近づけないためだったんだ。無策のお前より結果を出した」とクラウス。
「そうかもしれないが」
「案外似合いかもしれないぞ」
「クラウディア殿下の歴代の恋人にはいないタイプですよね」
「それは分からないが」とクラウス。「弟は意外にも一途だ」
「そうか? 評判の悪いやつだ」
「だが夏からこっち、クラウディア以外と噂になっていない」
「そういえば……そうか」
「特に最近は、彼女に本気になってもらおうと必死ですからね」
ウェルナーが言い募る。
「昨晩から今朝まで、クラウディアは弟に付き添っていたようだぞ」とクラウス。
「は!? 聞いてないぞ」
「そうか? 侍従侍女の間では今朝のトップニュースらしいが」とクラウス。
「そういう優しさが殿下の素敵なところですよ」とウェルナー。
「悪ガキだって骨抜きになる」としたり顔でうなずくクラウス。
「クラウディア殿下は姉御肌ですからね。年下の悪ガキがちょうどいいのかも」
「同意」
「いや、私は反対だ!」
声を上げるとクラウス、ウェルナー、二人の冷ややかな目が向けられた。
「あなたは誰が相手だろうと」とウェルナー。
「妹たちの恋に反対ではないか」とクラウス。
「「シスコンめ」」二人の声が揃った。
「それはクラウスだ!」と言い返す。
「クリズウィッドだ!」と反撃される。
「両名ともですよ」
涼しい顔で言ってのけたウェルナーを、じとりと見る。
「ずるいぞ」とクラウス。「なぜお前の妹はもう嫁に出ている」
「子供みたいな言いがかりだな」とウェルナーが吹き出した。
……良かった、先にクラウスが言ってくれて。
自分も同じことを口にしようとしていたことは棚に上げ。
「そういう発言をするあたりが、シスコンたる所以だな」
と済まし顔で言ってやった。




