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おまけ小話34・〔閑話〕お姉ちゃんは苦労する

三兄妹の対策会議のあとの話

(クラウディアの話です)


「それじゃあクリズウィッドはのんびり手紙でも書いていて。ルクレツィア、行きましょ!」

 そう言って立ち上がる。それだけでピュアな妹は顔を薔薇色に染めた。どんだけ可愛いのだ、この子は。


「どこへ行く? 何か予定があったか?」

 鈍い兄は斜め上に視線を彷徨わせているから、私たちの予定を思いだそうとしているようだ。


「今日の西翼の警備は第八師団よ」

 私の言葉にルクレツィアはもじもじとし、馬鹿兄は微妙な表情になった。未だにこの阿保は妹の恋に納得がいってないのだ。そのくせ妹と愛しいアンヌローザに嫌われたくないから、応援しているふりをしている。姑息!


「今日のジョナサンは巡回だから、逃すと会えないのよ。あなたに構っているヒマはないの」

 まだ兄を気にして立ち上がらない妹の腕を取って立たせる。

「酷いな」と呟くクリズウィッド。

「手紙を添削してあげるのだから、文句を言わない!」


 ぶつくさ言う兄。というか、絶対に先に生まれたのは私にちがいない。だってこの情けなさは兄の貫禄ゼロだもの。本来はきっと弟だったのだ。

 そんな不甲斐ない奴に、じゃあねと言って、ルクレツィアと部屋を出る。

「お姉さま、ありがとう」

 はにかんだ顔の妹。

「クリズウィッドは上手くいってなかろうが、立場は婚約者。あなたは上手くいってない上に立場も何もないのよ。いじけた愚痴に付き合うヒマがあるなら、ガンガン攻めなさい」


 妹は胸を押さえた。

「正論がキツイわ!」

「私という素敵な姉がいて良かったでしょ」

「ええ、もちろんよ」


 と前方の廊下の角からジョナサンとその他が現れた。良かった、出会えた。向こうもこちらに気づいたようで、巡回中なのに軟派に片手を上げた。


 お互い十分な距離まで寄ったところで声をかける。

「今日は第八師団だったのね」と知らなかったふりをする。「ご苦労様」

 鷹揚にうなずくジョナサン。

「何か変わりはないかい?」

「ないわよ。ね、ルクレツィア」

 ジョナサンの視線が彼女へ動く。なのにルクレツィアはうつむいて冷めた声で、ええ、の一言で終わり。

 まったく! 会話をする努力をしなさい。せめて笑顔を見せる努力を!


 だが。

「アンヌローザはどうしてる?」

 ジョナサンが問いかけた。良かった、彼が鋼の心臓で。それとも冷ややかな態度のルクレツィアに慣れきっているのかしら。


「元気にしてるわ。一ヶ月のお休みだからと伸び伸びしているようよ」

 さすがアンヌローザ。王宮に興味がないから出禁なんてなんの苦でもないのだろう。

「彼女らしい」ジョナサンも苦笑いを浮かべた。「落ち込んでいなくて良かった」

「ええ。ありがとう。アンヌに伝えておきます」


 それじゃと、ジョナサンとその他とすれ違う。

 ルクレツィアはまだうつむいているけれど、会話が出来たことが嬉しいようだ。口の端がにやけているのがわかる。

 肘で彼女をつつく。


「次は目を見て喋るのよ」と囁く。

「無理よ! これだけで心臓が爆発しそうなのよ!」

「可愛い! ルクレツィア、可愛いわよ。だけど生ぬるい! まともに会話が出来るころにはおばあちゃんよ」


 だってと赤い顔で呟く妹。

 なんでみんながみんか、手がかかるのかしら。自分の恋ぐらい自分でなんとかしてほしいのに!

 まったく、お姉ちゃんは大変だわ。


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