おまけ小話26・1元修道騎士のぼやき
近衛連隊の腐敗の頃の話
☆元修道騎士のぼやき☆
(ブルーノの話です)
若い主人がクリズウィッド殿下の部屋に入るのを見届けると、近くの控え室に入った。
正確には、ただの部屋だ。いつの間にかフェルグラート家従者の控え室的使い方がされるようになっただけ。俺たち三従者が暇をつぶすための本やらチェスやらカードやらが置きっぱなしになっている。
もちろんそれらで遊んでいたって警戒は怠らない。若き主人は、思い出したかのような周期で命を狙われる。
とは言っても、彼は殺されることはないんじゃないかと思う。聞いたところによると暗殺未遂は幼少の頃からあるという。それを何故かかいくぐって今日まで生きてきているのだ。神の特別な加護でもついているのかもしれない。
手を伸ばして卓上の本の一冊を手にとる。これは見覚えがない。ラルフかアレンが持ち込んだのだろう。俺の読みかけのはどれだったか。
探そうとしたところで、開け放されたままの入り口からひょこりと顔が出た。
ルクレツィア王女の侍女シャノンだ。
にこにこしながら部屋に入ってくる。
「聞きましたよ」
「何を?」
「クリズウィッド殿下に怒られたって」
「早いな。ついさっきのことだぞ」
そりゃね、とシャノンは笑う。
「殿下も何を心配しているんだか。アンヌローザ殿と俺なんて親子ほど年が離れているのにな」
「ラルフさんだったらそこまで心配しないんじゃないんですか?」
「ひどいな。確かにあいつは堅物すぎはるけど」
「ラルフさんをけなしているんじゃないですよ! あなたが信用ならない、って話」
シャノンはくすくす笑っている。
「それこそおかしい」
「だってラルフさんやアレンさんに比べたら、お堅くないじゃないですか!」
「そりゃラルフよりはコミュ力があるってだけだぞ」
修道騎士だったころ、そこそこの役職にあったから外部との交渉役を勤めることも多かった。一兵卒に近づくほど外部、とりわけ女性との接触は減る仕組みだったのだ。
「殿下からすれば、十分不安の種ですよ。クラウディア様は父親どころか祖父ぐらいに年の離れた方と結婚してますからね」
「なるほど。肝に命じておこう」
「そうしておいて下さいね」
じゃあ、とシャノンが去ろうとしたので、
「どうだい、チェスでも?」
と声をかけた。
「もう! だから信用ならないんでしょう! 暇している侍従を探して声をかけておきますよ」
「頼むよ」
笑いながら去る彼女を見送り、椅子の背にもたれた。
信用ならないと言われるのは不本意だ。三十年以上も真面目な修道騎士として生きてきたのだ。
でもまあ自分の軽率な行いのせいで、可愛いアンヌローザ殿にあんな哀しそうな顔をさせるなんて、二度としたくない。
若き主人が反論もせずに叱られているのだって、面白くない。
自重しよう、と心の中で呟く。
彼女と話すのは楽しいから、残念だが仕方ない。
あの婚約者がもう少し寛容ならなあ。
なんて言ったら真面目な主人に怒られるな。うむ。




