おまけ小話21・2元修道騎士たちの密やかな楽しみ
バカンスの頃の話
☆元修道騎士たちの密やかな楽しみ☆
(ブルーノのお話しです)
夜半。与えられた部屋で剣の手入れをする。
ひとつの宮殿に敵味方入り乱れて泊まっているぶん、腕力的な暗殺は行われないのではないか、とは若き主人の考えだ。だがあくまで考え。暗殺者に襲われないとは限らないので、気は抜けない。
「そうそう」
隣で同じように手入れの最中のラルフが思い出したように声をあげた。
「今日もアンヌローザ殿が逃げて来た」
「今日もか」
「ああ」
アンヌローザ殿はどうやら婚約者殿との甘い雰囲気が苦手らしい。クリズウィッド殿下は良い方だし、彼女もそれは分かっているようだけど、どうにもならないようだ。二人きりの状況になりそうな時は、俺たちの元へ逃げて来る。
「普通に話していたのだがな、ふとルカの話題になった」
「……で?」
「墓参りしたいとさ」
「……それは難しいだろ?」
「ああ、本人もわかっているようだ」
「なぜそんなにルカにこだわるんだ。あいつはたいして会話はしてないと言ってたぞ」
ラルフはうなずくと、
「会話の量じゃないってことだろうな」
と言う。
そもそも会話手段を筆談に頼っていたルカは、俺たち以外とはろくに話さなかった。本人が面倒くさがったのが一番の理由だ。
「アンヌローザ殿もなかなかの変わり種なのだろうな」
俺がそう言うとラルフは
「ああ、可愛らしいひとだ」
と答える。
「惚れるなよ?」
「惚れるか!」
「まあ、だが、可愛らしいのは、わかる」
シンシア殿も可愛らしいけれど、それとはまた違う。
「今日なんてな」ラルフは笑った。何か思い出したらしい。「サロンからちょろまかしてきたって、珍しい菓子をくれた」
「ちょろまかす? ご令嬢はそんな言葉を使うものなのか?」
「使わんだろう。シンシア殿は言わない」
「餌付けされるな。怒られるぞ」
「分かってる。だが美味しかった」
「食ったのか!」
「あの笑顔でどうぞと差し出されて断れるか!?」
まあ、否めない。
「……美味いと言ったらな……」
ラルフがこちらを見た。
「明日はあんたの分をちょろまかしてくるとさ」
「は?」
「拒めたらあんたの勝ち。受け取ったら俺の勝ち、な」
「なんでそうなる?」
ラルフはにやりと片頬をあげた。
「餌付けされちゃダメなんだろう?」
む……と口ごもる。隣のニヤニヤ顔が止まらない。
「わかった! 俺の負けだ!」
「貰う前から敗北か」
笑い声が狭い室内に響く。
「あんただって彼女に弱いくせに!」
本当は彼女が俺たちの元へ逃げて来ないことが一番なのだが。
来てくれることが実は、ちょっと……、いや、かなり嬉しいことは、ここだけの秘密だ。




