6・3神父
教会へ着くのが普段より遅くなってしまった。子供たちがわらわらと出て来て口々に、どうしたの?何かあったの?と聞いてきた。
「俺が待ち合わせに遅れたんだ」
リヒターはそう言って、また一人で教会の中に消えた。
「心配してたんだ」
「また何かあったのかと思った!」
「探しに行こうか相談してたの」
と子供たち。
ゆっくりした足取りでやってきた神父が笑顔で
「何もなくて良かったです」
と言った。
どうしてなのか、その言葉にもやもやする。
いつもどおりしばらくはみんなと遊び、後半は孤児院の食堂で読み書きを見る。
ここでの時間は本当に楽しい。私にとってなくてはならない癒しの時間だ。
と、ロレンツォ神父がやってきて隣に座った。
「アンヌローザ様」硬い表情。「申し上げにくいのですが……」
「はい?」
また資金が足りないのだろうか。
「あのリヒターという方のことです」
神父の言葉に、なぜか気が滅入る。
「あなた様を助けて下さったことには、感謝しております。ですが信用に足る人物なのでしょうか」
神父は良い方だ。それは間違いない。行く当てのない子供たちを住まわせ食事の世話をして、一人立ちできるよう面倒を見ている。いつも子供優先で自分はろくな食事をしていないから、痩せ細っている。
だけどな。
「街で耳にいたしました。裏街で顔がきくとか。その道の方のようですね」
スカートを握りしめる。
「公爵令嬢であるあなた様がご信用なさってよい人物とは思えません。それに礼拝堂で寝ているような輩です。信心もない」
心がもやもやする。
「護衛は他の方に頼むべきです」
他って?
屋敷の人間はもちろん不可。
知り合いの近衛? もちろん不可。
街の護衛斡旋所? そんな所の見知らぬ人なんて、信用できるかわからない。リヒターと何が違うというの?
リヒターは見かけは胡散臭いけれど、悪い人ではないと、私の直感が言っている。
「……他に当てなんてありません。この前のことがあったので、一人でこの区画に来るのは怖いのです。神父様が彼を連れてくるなとおっしゃるのなら、私はもう来れません」
私たちの会話を聞いていた子供たちが、口々にそんなこと言わないでと叫ぶ。
「ごめんなさいね」立ち上がる。「パンは誰かに届けてもらうようにします」




