63・2混乱
角から現れた沢山の近衛。手には剣。明らかな敵意。
「部屋に入って扉に鍵を!」
ブルーノが叫びながら剣を抜く。
だけどルクレツィアが。
振り向くと、走るルクレツィアを追い越したラルフ。その先に。クリズウィッドとウェルナーを部屋に突き飛ばし、扉を閉めようとするジョナサン。彼の背後に剣を振り上げた近衛……。
「ジョナサン!!」
ルクレツィアの叫び声。
「アンヌローザ! 入って!」
シンシアの叫び声。
首が宙を舞った。
思わず目をつぶる。
怒号と剣のかち合う音。
「もう大丈夫ですよ」
優しい声。目を開けるとブルーノが私を見おろしている。
私はいつの間にか床に座りこんでいた。
シンシアはアレンに抱きしめられて立っている。
ルクレツィア!
振り返ると彼女は床にへたりこみ、ジョナサンを抱き締めて声を上げて泣いていた。それをジョナサンが抱き返している。ジョナサン! 無事だったんだ!
半開きの扉の脇に腰を抜かした様子のクリズウィッドとウェルナー。
床に倒れている沢山の近衛。
その中に立っている血まみれの剣を持ったラルフが、同じ様相の人物に
「来てくれなければ危なかった」と話しかける。
「そっちも襲撃されたのか」
と私の隣からブルーノが声をかける。
彼はうなずいた。
「帰りついて警備隊が減ったところをやられた」
「王妃殿下は?」
「無事だ」
角からバラバラと、今度は警備隊がやってきた。
隊長らしき男が
「ご無事か!」と叫ぶ。
「クリズウィッド殿下他五名は無事だ」とラルフの隣の男が答える。彼は全身血まみれだ。手に持つ剣からは血が滴っている。
視線が合う。
彼は目を伏した。
それからため息。
彼は目を上げ、再び視線が合う。
「……嘘をついてすまなかった。ルカは私だ」
クラウスはそう言って、また目を伏せた。




