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62・1迎えたエンド

 広間から三々五々人が散って行く中で。

 王妃殿下を中心にクラウスやクリズウィッドの攻略対象四人、内務大臣をはじめとする大臣高官たち、なぜか近衛連隊ではなく警備隊の隊長たちが玉座の前に集まって話している。


 私、ルクレツィア、シンシア。それからクラウディアとジョナサン弟は、アレン、ブルーノ、ラルフに守られながら、広間の隅から彼らを見ていた。


 思いも寄らない展開に、悪役令嬢三人はしばし放心していたけれど。

「一体これは何エンドなのかしら」

 とシンシアが疑問を呈した。


 その瞬間にすっかり忘れていたことを思いだし、思わず声を上げた。

 どうしたの?と不思議そうに見られる。

「主人公に謝られたのよ! 舞踏会開始前に。社交界を何もわかっていなくて、私を誤解していたって!」

「「ええっ!」」 と叫んだのはシンシアとルクレツィア。

 クラウディアは首を傾げている。


 と、流れていく人波に逆らってこちらに来る令嬢が見えた。マリーとテレーズだ。二人は私たちの元に来ると、泣きそうな顔で

「大丈夫ですか?」

 と尋ねた。

「大丈夫」

 私は答えて、ルクレツィアを見た。彼女もうなずく。

「はっきりと決着がついて晴れ晴れした気分よ」


 言葉に出したら、なお一層その思いが強くなった。その言葉が一番今の気分にしっくりくるのだ。誰も悲惨なエンドを迎えなかったし、父たちも罪を償う時が来た。クラウスも失踪する状況ではない。兄と義兄のことだけは寝耳に水だったけれど、彼らの素行からすればさもありなんという心境だ。


「だけどこれからが……」

「私たちはずっと味方です」


 涙を浮かべている二人に、胸が苦しくなる。

「ありがとう。素敵なお友達がいて、私たちは幸せよ」

 私の言葉にルクレツィアとシンシアがうなずく。


「心配ないですよ」とアレンが明るく言った。「あなた方子供世代は罪に問わないと、クラウスが王妃殿下から確約をいただいている」

「どういうこと?」

「それをのまないのなら、自分の告発を諦めこの件から一切手を引くと、彼はそう取引をしたんですよ。結果的に王妃殿下が国王代理になりましたが、彼女はどうしても『クラウス』を王にしたかった。だから誓約書も書いています」

 アレンはにっこりした。

「だからアンヌローザ様、西翼の皆様、ワイズナリー兄弟はご自身が罪をおかしていなければ、ご安心いただいて大丈夫」

「ルパートは?」とジョナサン弟が不安そうに問うた。

「もちろん彼も」とアレン。

 ほっとした空気が流れる。


 と。

「エド!」妃殿下の声が響いた。私たちを見ている。「こちらへ!」

 エド? 誰を呼んでいるの?

「行ってこい。こちらは大丈夫」とブルーノがアレンに向かって言った。

 アレンはシンシアを見た。

「すまない、本当の名はエドワルドという。ちょっとだけ行ってくる」

 彼はブルーノたちに、頼むと一言、走って行った。


 悪役令嬢たちで顔を見合せる。

「「「『えっくん』!」」」

 私たちの声に、ちらりとクラウスがこちらを見た気がした。

 不思議そうな表情のマリーとテレーズ。

「心配ないのですか?」

「そうみたいね」と私。

「そうよ、クラウスがあなたたちを苦境に立たせるわけがないわ!」とシンシア。

「その通り」とラルフ。

 良かったとマリーとテレーズは声を揃えて安堵の表情を浮かべた。


「そうそう。アンヌローザ様、ジュディットがあなたに謝ることが出来たと話していましたが」

「ええ。誤解が解けて良かったわ。あなたたちが良いお友達になってくれたからね」

「そんな。彼女もちゃんと話してみれば、私たちと変わらない普通の子だったというだけです」頬を赤らめるマリー。

「フェルグラート公爵様にも謝罪したそうです。あなた様に失礼を重ねていたことを。一人であなた様に謝ったことも報告もしたって」

「まあ」

 ルクレツィアとシンシアと顔を見合せる。

「それは本当に良かったわ!」


 彼女たちが去ると、ルクレツィアが

「ノーマル?」と言った。

「そうね、ギリギリのタイミングでバッドから変わったに違いないわ」とシンシア。

「もう刺し違えの危険はないのかしら」と私。

「え、大丈夫なの?」とはクラウディア。

「「本当に?」」声を揃えたのはブルーノとラルフ。

 彼らもその危険を聞いていたのか。

「多分。ジュディットのおかげよ」


 悪役令嬢ではない四人は何のことやらと首を捻っている。


「となるとノーマルの場合私たちは……」とルクレツィア。

 彼女と私は身分を剥奪されて生涯幽閉。ゲーム的展開では、なさそうだけど。クラウスたちの集団を見る。あちらの展開では、あってもおかしくない。いや、『おかしくなかった』だろう。

「全て回避できたのよ。起こる要素がないもの」とシンシア。

「そうかな?」と私。

「そうよ!」力強くうなずくシンシア。


 なんとなく、悪役令嬢三人で手を繋いだ。それぞれ張りつめていたものがほぐれていく。

 私たちは令嬢らしからずに、えへへと力の抜けた笑いをしあった。


 とりあえず落着だ。

 婚約解消のことを話すのは、今はやめておこう。ルクレツィアはがっかりするに違いない。クリズウィッドが公言することもできなかった。しばらくごたつきそうだし、様子を見て伝えよう。


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