60・3寸前の悪役令嬢たち
シンシアから聞かされたクラウス十一年前の事件。あまりの酷さに胸が潰れそうだ。
屋敷を襲撃され、自分以外の住人四人全員と旅の父子が殺害されたうえ、事実隠蔽のために放火された。
しかも父子はクラウスの寝室を借りていたために、彼と家庭教師だと勘違いされたらしい。
それだけの大事件にも関わらず、現在警備隊に保管されている調査書には火事の原因は失火、死因は焼死と書かれているそうだ。
どう考えても、黒幕は父たちとしか思えない。
フェルグラート家の家令の話では、クラウスが修道院に入れられたのは、彼の暗殺にフェルグラート家が巻き込まれないため。危険因子は隔離しようということだったそうだ。
これ。前世の時代劇とかミステリーだったら、絶対にクラウスが敵討ちする流れだよね。
とはいえシンシアは、兄が犯人と黒幕に刃を向けるとは思えない、あくまで狙いは犯人の告発のはずだと言う。
それをこのレセプション舞踏会でするのではないか。
ルクレツィアも私も、ありうるかもしれないと考えを改めた。
もちろんウェルナーの父親の事件も、乳兄弟毒殺事件も卑劣であることに変わりはない。だけどこの事件は亡くなっている人数もやり口の卑怯さも、格段に上だ。
諸外国の賓客の前でこれを暴露されたら、いくら国王たちが知らぬ存ぜぬで通しきったとしても、ダメージは大きいだろう。
シンシアはニンナから兄たちの不穏な様子を聞いてすぐ、彼らと話そうとしたそうだ。だけどクラウス、ブルーノ、ラルフは既に屋敷を出ており、残っていたアレンも何のことか分からないの一点張りだったという。
クラウスとウェルナーは今夜企みを敢行するのか、それはゲームと関係があるのか、ゲームは何エンドを迎えようとしているのか。ルクレツィアと私は悲惨な末路を回避できるのか。
シンシアはとにかく兄を捕まえて話すと言い、ルクレツィアと私はどんなエンドが来ても、二人に父親たちが告発されても、冷静に対処しようと約束しあった。
そうだ私も主人公の変化と、婚約解消のことを伝えなければ。
それを口にしようとしたところで扉がノックされてクリズウィッド、ジョナサン、アレンが顔を出した。もう時間らしい。
咄嗟に右手を差し出した。
二人を見る。
ルクレツィアがその上に自分の右手を重ねる。その上にシンシア。
「私たち『全員』で乗りきるわよ!」と叫ぶ。
「「『全員』で!」」とルクレツィアとシンシア。
「気合いいれて!!」
「「「おー!!」」」
鬨の声をあげる私たちにクリズウィッドが目を丸くしている。
「一体何と戦おうとしているのだい?」




