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59・1運命の日

 ついにゲームの最終場面の日になった。私の中はリヒターと後悔とでいっぱいだけど、しっかりしなくてはいけない。シンシア曰く、バッドエンドは確定。ぼんやりしていたら、ルクレツィアと刺し違えてしまうかもしれない。そうしたらクラウスは失踪し、クリズウィッドは修道院行きだ。



 週の頭に、第二回悪役令嬢の集い(再)を開いた。クラウスはやはり主人公を嫌っているままだというから、バッドエンド対策について話し合った。


 レセプション舞踏会は国の公式行事だ。私は第二王子の婚約者、王族の一員として出席する。賓客たちへのお披露目の意味合いもあるらしい。普段のように広間の隅でまったりして過ごすことはできない。

 打ち合わせによれば、玉座のユリウスを中心にして、彼の左手側にオズワルド、姉。右手側にクリズウィッド、私、クラウディア、ルクレツィアと並ぶらしい。


 ユリウス・父の挨拶と諸外国からの賓客紹介の間は、その並びで立っていて、それが終わったら着席しても良い。けれど賓客を会話やダンスでもてなさなければならない。


 一方でゲームの展開は。

 ……よくわからない。誰もプレイしてないからね。

 恐らくジュディットがクラウスにフラれる。なんやかんやあり、ルクレツィアと私は、クラウスが自分のものにならないなら殺してしまえと剣を持ち出して、ミラクルが起きて刺し違える。


 こんな展開を引き起こすジュディットのフラレ会話が、賓客の紹介やユリウスの挨拶中に起こるとは思えない。

 だから用心するのはそれらが終わった後だろう。まずは、ルクレツィアと私はなるべく近寄らないことにする。


 そして、なんとシンシアは私たちの刺し違えが起きるのはレセプションとクラウスに伝えたそうだ。彼は、根拠は?などと疑うことはせずに、真摯な顔で分かったと答えたという。そして、ブルーノとラルフを私たちのそばに待機させると約束したらしい。


 それでは誰が彼を守るのかとシンシアに抗議したのだけど、クラウスがそうしたいからいいのだと言われてしまった。


 そのほかの対策として、ルクレツィアと私は、クラウスと主人公には近づかない。

 シンシアは兄に、舞踏会が終わるまでは何があっても主人公に優しく接するよう指示したそうだ。彼も了承しているという。二人の間がゴタゴタしていても、私たちは絶対に口を挟んではダメ。


 そして、もし誰かが私たち三人を非難し始めた場合は、クラウディアが反論してくれるという。

 なんとなんと、彼女にもバッドエンドの話をして協力を仰いだという。いつの間に。

 彼女はゲームに出て来ないから、安全のはず。その時はおとなしく助けてもらおう。


 そして集いの最後に、ルクレツィアとシンシアは変な顔で私を見て言った。

「万が一、お兄さまとクラウスがケンカを始めたら、アンヌは真っ先に広間を出るのよ」

「絶対にブルーノかラルフと一緒にね」

「なあに、それ。二人はケンカ中なの?」

 そう尋ねると、二人は揃ってため息をついた。

「そんなところ。アンヌは絶対に関わってはだめよ」とシンシア。「ゲーム展開になる恐れがあるわ」

「言いたくないけど」とルクレツィア。「一番剣を持ち出しそうなのがお兄さまなのよ」



 ◇◇



 そんな会話を思い出しながら侍従の後をついて歩く。

 舞踏会までにはまだまだ時間がある。

 昼前にクリズウィッドから急ぎの手紙が届き、それには、大事な話があるから予定より早く王宮に来るようにと、書かれていた。


 一体何の話なのだろう。


 彼の部屋に通される。初めてのことにうろたえる。今までも二人で会うことはあったけれど、必ずサロンで扉は開け放されていた。だけど今は私の後ろで扉が音をたてて閉じられた。


 部屋の中央におかれた長椅子からクリズウィッドが立ち上がる。なんだか強ばった顔で、うまく笑顔がつくれていない。


「やあ、アンヌローザ。支度で忙しいのに時間を早めて済まないね。ここに座ってくれ」

 彼が示したのは、自分のとなりだ。

 なんだかおかしい。そんな席を勧められるのも初めてだ。


 躊躇して。

 だけれど私は彼と結婚することも、悪役令嬢のエンドを迎えることも覚悟を決めている。


 笑顔で挨拶をして、勧められたとおりに座った。


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