5・3対策会議
残念なことに、彼女も私もゲームについて持っている知識はほとんど変わらなかった。
とりあえずお互いに悪役令嬢になりそうな性格ではないよね、と確認し合う。
「問題は私たちにその気がなくても巻き込まれないか、ということよね」と私。
「その通り」とルクレツィア。「だいたいあなたは全てのルートで悪役令嬢ですもの。かなり不安だわ」
そうなのだ。ゲームの私ってば、相当に性格がひんまがっている上に、並外れたパワフルさで主人公に嫌がらせをしまくる。
「ねえ、アンヌ。あなたは好きな人はいるの?」
今までお互いに、いないと申告してきた。
「いないわ。対象も、そうでなくても」
「そう。私もいないわ」
よかったと安堵し合う。
「「推しは?」」
また声が揃ったことで、二人で声をあげて笑った。
「私はウェルナーよ」
「まあ。穏やかな人が好きなのね」とルクレツィア。「実際の彼はゲームより素敵そうよね」
「そうね。ルクレツィアは誰?」
「笑わないでね」と彼女ははにかんだ。「ジョナサンよ」
「まあ……」なんと返答すべきか一瞬迷う。「……ゲームでは程よい俺様具合だったものね」
「いいのよ、気を使わなくて。私だってあれはないなと思っているもの」
返事の代わりに苦笑する。
ジョナサン、本当に残念な奴だ。
「今のところお互いに問題はなさそうかしら」とルクレツィア。
「そうね。巻き込まれないように気をつけないと」
私たちは幾つかの対策を考えた。
主人公は半年後に王宮に現れる伯爵令嬢だ。だけど元は庶民。伯爵が彼女に親切にされたことに感動して養女に迎え、連れてくる。
だけどそんな経歴だからマナーもなっていないし、話題にもついてこれない。社交界の若い娘の間では浮いてしまう。
そして彼女にもっとも意地悪なのが私、アンヌローザなのだ。自分でもびっくり。
とにかく。私もルクレツィアも、彼女に意地悪をしない。深く関わらない。第三者がいるところでしか話さない。
この『三ない運動』を主人公対策の柱にすることにした。
それから攻略対象たち。
クリズウィッドはどうにもならないから、今のままでいく。私としては婚約を解消するのが一番望ましいのだけど、ルクレツィアは私と姉妹になりたいと言う。
それからジョナサン。あいつはこちらから距離を置いても気づかないし、何を言っても通じない。今まで通り、氷点下並の冷たい態度をとる。
問題はクラウスとウェルナー。彼らはこれから半年の間にクリズウィッドと仲良くなると思われる。ならば仲良くならなければ私たちとの接点ができず、巻き込まれることはないかもしれない。
「だけれどあと半年しかないのよね」
ルクレツィアは頬に手を当てて、淑やかにため息をついた。きっと彼女は前世でもご令嬢だったに違いない。
「下手に動いて巻き込まれるのも怖いわ」
彼女の言葉にうなずく。
ルクレツィアはクラウスのルートでのみ悪役令嬢として活躍する。他ルートだと私の取り巻きとしているけれど、知っている限りでは、悲惨な結末を迎えることはない。
「まずはクラウスの情報を集めましょう。私たち最大の鬼門は彼だもの。対策はそれから」
ルクレツィアはそうねとうなずく。
と、リヒター情報を思い出した。
「そういえばクラウスは、フェルグラート家に僧侶仲間を一人と騎士二人を連れて戻って来たそうよ」
「まあ、そんなに?」ルクレツィアはそれから得心の表情になった。「……なるほど、そうだったのね。一人は昨日、連れて来ていたわ。控え室で待機していた彼の従者が、騎士にしか見えない厳つい人だったと話題になっているの」
「そうなの? 彼は何をそんなに警戒しているのかしら。やはり王位のことで?」
二十年前に王位継承権を持っていた人たちは亡命したという。だから彼も慎重になっているのかな。
「……アンヌローザ」またルクレツィアは真剣な面持ちで私の名前を呼んだ。「とても衝撃的な話をするわ。あなたの心根の強さを信じているから、するの」
この前の話よりも、衝撃的ということなのかな。
私はごくりと唾を飲み込み、いいわ、と答えた。




