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55・2ルクレツィアと恋の行方

 みんなで楽しく踊ったり(といっても、私はクリズウィッドだけだけど)、会話をしたりして過ごし、そろそろお開きかという頃合いにジョナサン弟が乱入してきた。クラウディアと踊っていたクラウスに

「それは俺の女だ」

 とかまし、当のクラウディアに詰られるという一幕があった。

 結局彼女は弟と広間を出ていき、会は終了。

 だけれど帰りがたくて悪役令嬢三人は、近くのサロンに移動して、ゲームとは全く関係ない話に盛り上がった。


 多分、男子チームも別のところで同じようにしているのだろう。


「それにしても今日のアレンはいい感じじゃなかった?」

 とルクレツィアは私を見た。シンシアは顔を赤くさせながらにやける。

 だけれど約束があるので、何も言うことができない。

「なんだか口止めをされているようよ。私が聞いてもこんな顔をしてだんまりなの」

「あら。何故かしら?」

 可愛らしく首をかしげるルクレツィア。彼女にはまだクラウスとウェルナーの目的と推察されることについては話していない。


 たった五歳のクラウスを私たちの父親が毒殺しようとしたと、しかも彼の乳兄弟が身代わりになったと聞いたら、どれだけショックを受けるだろう。

 いずれ話すけれど、それは今日ではない。せっかくの楽しい一日だったのだから。


「さあ。そのうち分かるのじゃないかしら。ゆっくり待ちましょう」

 ルクレツィアはうなずく。

「それよりもジョナサンにだいぶ慣れた?」

 今度はルクレツィアが顔を赤くする番だ。彼女は相変わらずの塩対応だけど、何度もダンスしたのだ。だいぶ距離が近づいたのではないだろうか。


「前から気になっていたのだけど」とシンシア。「ルクレツィアはずっとジョナサンにああいう態度なの?」

 そうなのだ。実は以前はここまでツンではなかった。なぜ変わったのか、私は確認済みだ。


 問われたルクレツィアは赤い顔のまま、目が泳いでいる。しばらくそうしていたけれど。

「違うのよ」

 と覚悟を決めたように言った。

「アンヌがお兄さまと婚約をして、やはりここはゲームの世界で、そのとおりの運命になるのだと実感したの。そうしたら私は公爵を好きになってしまう」


 ルクレツィアは一瞬泣き出しそうな顔をした。

「それが嫌だったの。ジョナサンなんてバカだし女の子好きだし良いところなんてない、なんであんな人を好きなのか自分でも不思議だったのに、いざ他の人に恋すると思ったら……。どうしようもなく嫌で怖くて、私は本当に彼が好きなんだって自覚したの。そうしたら普通の態度をとれなくなってしまったのよ」


 そっと彼女の手を握りしめる。


「そうなのね」とシンシアはうなずいた。「ゲームどおりにならなくて良かったわ。みんなでエンドを乗りきって、彼には振り向いてもらいましょう!」

「そうよ」と私。「あなたがあれだけツンケンしていても話し掛けてくれるのよ。望みはあるわ!」

「でもそれは昔からよね」苦笑いするルクレツィア。「あなたがどんなに冷たくあしらっても全くめげなかったじゃない」


 そうだった。ジョナサンはこちらがどんな態度をとっても照れていると捉える能天気だった。


「どうするの? 告白しないの?」とシンシア。

 ゲームとしてはバッドエンドを迎えることはほぼ確定だ。ルクレツィアと私は刺し違える危険がある。もちろん絶対に回避するけれど。万が一ということもある。

 悔いがないように想いは伝えておきたい。私ならば。ルクレツィアは?


「したいわ」と頬を染めた。「ちゃんと自分の口からジョナサンに言いたいと思っているのよ。なかなか勇気が出ないけれど。どうしたら好きって言えるのかしら」

「練習しましょ……」

 シンシアが言いかけた言葉を切って、何やら一点を見つめている。その視線を辿って。


 開け放した扉の元にジョナサンが戸惑い顔で立っていた。


 ルクレツィアは硬直している。

「き、聞いていた?」

 私は恐る恐る尋ねる。

「ああ」うなずくジョナサン。「えっと」彼は困惑した様子で、手が意味もなく動いている。「ルクレツィア、僕が好きなのか? いや、驚いたな」


 その様子はどう見ても演技ではない。彼は可愛いルクレツィアに好かれていると知っても喜ばずに、ただただ戸惑ってている。


「まあ、うん、ありがとう。じゃあ、帰ると声を掛けに来ただけだから。また」

 そそくさと去るジョナサン。

 彼の姿が消えてややも経つと。

 ルクレツィアは泣き崩れた。


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