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55・1シンシアの成人式

 西翼の小さな小さな広間前。

 普段の楽団が奏でる豪勢な音楽ではなくて、四人だけの四重奏が流れる中、シンシア・クラウス、私・クリズウィッド、ルクレツィア・ジョナサンの三組が広間に入る。迎えるのはウェルナーとクラウディア。


 シンシアの一年遅れの成人式だ。


 私たち『成人』側はみな伝統の白い衣装を着ている。

 実はクラウスだけが最後まで頑なに拒否した。理由は、衣装を持っていないから。シンシア曰く、この件を聞いたお母様はウラジミールの衣装を隠してしまったらしい。そのくせシンシアの成人式には大喜びだったと、彼女は目に涙をためて話した。

 結局ウェルナーが自分のものを三従者に託し、彼らが秘密裏にサイズ直しをした。そうやって外堀を埋められたクラウスは、ようやく諦めて『成人』としての参加を了承したらしい。


 本人に秘密裏にお直しした衣装なのに、きちんとあつらえたかのようにサイズはぴったりだ。すごいな三従者、と思ったけれど、アレンが主人と似た体型だから彼に合わせたという。


 言われてみれば背格好はそうかもと思い、それならアレンはリヒターにも似ているのだと気づいた。


 今日、アレンはクラウスの従者として広間の隅に控えている。相変わらずの澄まし顔だけど、目はしっかりシンシアを追っているようだ。

 お熱いようで羨ましい。


 ちなみにシンシア調べによると、クラウスは誰もデートに誘っていないらしい。怪我の危険を回避できて良かったのではないだろうか。




 私たちが一列に並ぶと、クラウディアが真面目な顔でお祝いを述べた。彼女は最後を

「この素敵な友情が末永く続きますように」

 との言葉で締めくくった。


 彼女はとても聡い人だ。今この時期にその言葉を選んだのには、何か意味があるのだろうかと考えてしまう。


 そして続いたウェルナーは、若い人たちの未来が明るくあれと言った。



 ◇◇



 最初は『成人』三組で踊って、次はクラウディア・ウェルナー組が加わり、何故か足を痛めた(!)クラウスとアレンが交代して踊った。

 主役のシンシアは嬉しそうで、それを見ている異母兄は幸せそうだ。


 この企画を思い付いた私は偉いけど、クラウスを巻き込んだジョナサンはもっと素晴らしい。残念イケメンなんて呼んでいたことを心底謝りたい。おまけでこの勢いのまま、ルクレツィアと上手くいってくれないかな。


 二曲踊り終えるとみんな座って、なんとはなしにそれぞれのデビュタントの話になった。

 ジョナサンは亡きシンシアの兄と同い年だから、社交界デビューも一緒だった。その時の様子を兄妹に語って聞かせる様子には、残念さは微塵もない。二人は興味深げに耳を傾けている。


 クラウディアの言葉ではないけれど、こんな穏やかな時間が私たちの間にずっと流れ続けてほしい。


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