5・2仲間
シャノンがお茶を出してくれる。それが終わると彼女は一礼をして部屋を出ていった。
どうしたのだろう? いつもルクレツィアのそばにいるのに。
「だけれどさすがにジョナサンも焦ったのではないかしら」
とルクレツィア。
「何に?」
「フェルグラートの新当主によ」
ああ、とうなずく。
ジョナサンは中身はともかく、外見はかなりの美男子だ。
だけどクラウスの前では完敗だ。
なんだろう。あの青年は顔だけではなく、雰囲気にどことなく凄みがあるのだ。昨日は遠くから見ていただけど、そんな風に感じた。
二人は同じ年のはずだけど、ジョナサンが子供に見えてしまう。
「ねえ、アンヌローザ」
ルクレツィアが私の名前をそう呼ぶときは、何か大事なことを話すときだ。きっと秘密の話なのだ。だからシャノンが退出をした。
「新当主をどう思ったかしら?」
思わぬ質問に瞬く。
それがなぜ大事なのかな。彼女、冷静に見えるけれど、恋しちゃったのだろうか。まずいなぁ。
「噂通りの美男子ね」
「それだけ?」
「それだけ。どうしたの? ルクレツィア。彼がそんなに気になるの? まさか一目惚れ?」
私の言葉に彼女は目を見張った。
「まさか! 私はあなたが恋に落ちてしまったかと……」
「ええ!?」私、そんな素振りをした覚えはない。「まったく好みではないわ!」
「そうなの?」
ルクレツィアは不思議そうに首をかしげた。
私も首をかしげる。
お互いに見つめあって。
しばらくしてからルクレツィアは、ふうと息を吐いた。
「杞憂だったのね。よかった」
「きのうの私がそんな風に見えたかしら?」
彼女はいいえと答えてから、考えこんだ。
そして。
「あのね、アンヌローザ。私を変に思わないで下さる?」
真剣な顔。彼女は私の手を両手で包んだ。
「どうかなさったの?」
「実はほんの少しだけ、未来を知っているの。あなたも私も彼に恋して仲違いをしてしまうのよ」
思わぬ告白に、息を飲む。
「私はあなたが大好きよ。ずっとお友達でいたいの。それに恋した先にあるのはあなたも私も悲惨な運命なの。信じられないかもしれないけれど」
「信じるわ! いいえ、私も知っているの。だからあなたを心配していたのよ!」
私たちはまた首をかしげて見つめあった。
「「『王宮の恋と陰謀』!!」」
私たちの声がそろった。
「「あなたも転生者なの!」」
再び声がそろう。
そして二人一緒に、にへらっと安堵の笑みを浮かべた。
◇◇
私もルクレツィアも、前世の記憶を取り戻したのは三年前の年の始めに大流行した黒風邪のせいだった。かなりの重篤に陥らせる性質の悪い風邪で、亡くなった方も多くいた。
実はクリズウィッドの最初の婚約者も、この風邪の犠牲になった。
私たちはこれにかかり、高熱にうかされている間に前世の夢を見たのだ。
残念なことに、どちらもゲームの序盤までしかプレイしていない。けれどお互いに悪役令嬢になること、最悪の結末が待っていることはわかった。
だからといって、私たちは友達をやめることはせずに、お互いになんとか助かろうと考え今日までやってきたのだ。
「ありがとう、友達を続けてくれて」
私はルクレツィアの手を握りしめた。
「こちらこそ、ありがとう。私たち兄妹から逃げ出さないでくれて」とルクレツィア。
お互いににっこりと笑みを交わす。
「「悪役令嬢なんて絶対にならないわ!!」」




