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52・3クラウス対策

 クラウスが何かを起こすとしたら、それはやはりウェルナーと共に、大事な人を殺した犯人の糾弾することだろうとシンシアは言う。

 問題は、それがいつかということだ。


 一応、目安はある。ゲームのエンドで彼が姿を消しているからだ。

 ただ正確にはエンド後に流れるその後のストーリーではないかと思われる。となるとまた幅が広がってしまう。私たち悪役令嬢三人は、誰もゲームをクリアしていない。


 ゲームの最後は二月末にある特別な舞踏会。これは多分、ユリウス在位二十周年式典のレセプションだ。国内の貴族以外にも各国から招待客が来る。その歓迎会が二月の最終日にあるのだ。主人公が今まで出た夜会の中で一番大規模で華やかなものだから、これが最後の舞台で間違いないだろう。


 レセプションを皮切りに、ユリウス在位二十周年式典が一週間続く。さらにその一週間後はクリズウィッドと私の挙式だ。もう招待状は発送済みで、クラウスもウェルナーも出席と返事が帰って来ている。


 根拠はないけれどアレンの言葉『少しの間』から考えると、この辺りまでにクラウスたちは行動を起こすのではないかと思う。


 とにかくシンシアはクラウスと三従者の様子伺いを強化するという。他にとれる対策は。


「父様たちを伺うわ」

 と私。クラウスが姿を消すのが企みの失敗なら、そうさせるのは父様一派にちがいない。

「だけど大丈夫かしら」と不安そうなシンシア。「あなたはバッドエンドを回避するのが一番重要なのよ。下手に動いてクラウスの手下だと勘違いされたら危なくないかしら?」

 にこりと笑う。

「ねえ、シンシア。あなたが言ったのよ。『毒を食らわば皿まで』って」

「まあ。そうね、言ったわ。だけど……」

「もちろん、気を付けるわよ。ルクレツィアとは刺し違えたくないもの。でも自分だけ助かって、あなたがどん底では辛いわ」


 シンシアは目をつぶった。眉間にシワが寄っている。私は黙って彼女を待った。


 しばらくたつと彼女はため息をついて、目を開いた。

「わかったわ。お父様の方をお願いね。でも無理はしないで」

「ええ。それからゲームの方はどうなのかしら」


 卓の隅にあった進行表を手元に寄せる。デビュタント舞踏会以降の主人公は。


 まずクリズウィッドのお茶会に招待される。ルクレツィアと私が彼女にした意地悪の詫びのためらしい。そこには彼の他、クラウス、ジョナサン、ウェルナーがいる。ここでクラウスに上手く嫉妬させないといけないらしい。成功すると、亡霊探索の礼の名目でお忍びデートに誘われる。


 次はそのデート。庶民に扮して町に出るが、チンピラに絡まれる。主人公の機転で逃げることができるがクラウスがケガをしており、彼女は手当てをする。

 この機転の選択がかなり重要らしい。下手すると主人公はチンピラに連れ去られてバッドエンド決定とある。


「まずクリズウィッドのお茶会に招待されることがなさそう」と私。

「ええ」とシンシア。「それからクラウスがデートに誘うなんて120パーセントないわ!」

「120パーセントなんだ」

 力強くうなずくシンシア。

「あの人って本命はいるの?」

 前にクラウディアが決めてくれないと困ると話していたけれど。シンシアは主人公に可能性がないことをいつも断言をする。


「……それは本人に聞いてね」

 なぜかにっこりするシンシア。

「そればっかり! まあ、いいわ。じゃあこれらは起こらないかしら。そうするともう、最後のシーンしかないわ」

「そうね。念のために聞くけど、デートに誘われてない?」

「リヒター? いいえ」

「ちがうわ、クラウスよ」

「ええっ」思わずのけ反る。「どうしてそうなるのよ」

「だって主人公に起こるはずのいちゃラブがあなたに起こった……いえ、ラブはなかったわね。とにかくあなたに起こったからよ」

 なんだか引っかかる言い回しだ。


「『いちゃ』もないけど」

「いいの! だって三従者しか見たことのないクラウスの貴重なショットを見たのでしょう!」

「まあ、そうだけど」

「で、どうなの? デートは? あり? なし?」

「ないに決まっているでしょう!」

「そう」

 あからさまに肩を落とすシンシア。


 そうか。あの時みたいに主人公以外の女の子とデートをする可能性があるのか。そうするとクラウスはケガをしてしまうかもしれない。シンシアはそれを心配しているのか。


「そうだわ。ジョナサン妹は?」

「何が?」不思議そうなシンシア。

「デートよ。主人公の代わり。舞踏会でとてもお似合いだったじゃない」

 何故かシンシアが、先ほどのブルーノみたいにカエルでも飲み込んだかのような表情をした。

「どうしたの?」

「……いいえ」とシンシアはため息をついた。「クラウスは彼女も誘わないと思うわ」

「そうなの? どのみち、デートをするならお忍びは危険だからよくないと伝えたほうがいいのじゃないかしら」


 そうねと彼女はうなずいたものの、またため息をついた。ジョナサン妹もシンシアの眼鏡にかなわないのだろうか。


「ねえ、アンヌローザ」とシンシア。真面目な表情だ。「バッドエンドはもちろん回避するとして、その後は……」


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