表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/251

50・1新たな『ミステリー』

 リヒターと墓地で話をした翌日、シンシアに手紙を出した。


 ゲーム後半にミステリー要素がないことが気になる。もしやルクレツィアと私に話しづらいことが何かあり、シンシアがひとりで対処しようとしていないかと心配だ。


 そんな内容だ。そして最後は、無理に打ち明けてほしい訳ではない。ただ私たちのことで悩まないでと結んだ。


 返事は数日経ってから来た。ありがとう、時間を下さい、とだけ書いてあった。



 ◇◇



 その手紙をもらった数日後。王太子妃の姉が、もっともな理由をつけて子連れでラムゼトゥール邸に泊まりに来た。

 そんなことは異例中の異例だという。すわ離婚かと社交界で噂されてしまうからだ。


 だけれどその危険を冒して帰って来た姉は、すっかり怯えきっていた。


 なんと王宮にザバイオーネの亡霊が夜な夜な出るという。それも東翼だけ。

 彼は自死後に罰として斬首され、その首は裁判所の前に三日間さらされた。その首を小脇に抱え、床に血の跡をつけながら毎晩のように廊下を徘徊しているという。

 そして

『書類さえあれば! あの殺人の証拠! あれさえあればユリウスやラムゼトゥールの雑魚など黙らせられたのに!』

 と恐ろしい声で呟いているそうだ。


 実はこの亡霊は年初から出ていたらしい。だけどセリフの内容が内容だから、箝口令が敷かれ、漏らした者は即刻処刑だという。だからお喋りな使用人も沈黙を守り、一般には知られなかった。


 姉はずっと恐ろしさに耐えていたらしいのだが、もう限界だとうちに帰って来たのだった。

 両親や兄は当然この件を知っていて、ずっと姉を宥めていたらしい。だけど宥められたからといって亡霊が消える訳じゃない。


 帰って来た姉は、私を捕まえてひたすら愚痴を言い続けた。亡霊の声を毎晩のように聞いたという姉は、顔色も悪くかなり参っているようだったから、私もおとなしく聞き役に徹した。


 彼女の話では、亡霊は東翼にしか出ないため、西翼の三人は知らないだろうとのことだ。亡霊が出始めてからは、夜の東翼は関係者以外立ち入り禁止にしているので、貴族たちにもバレてないはず、という。


 近衛師団が見回りを強化しているそうだけど、亡霊が彼らの前に現れることはないそうだ。姿を見たことがあるのは、数人の使用人とユリウスだけ。声は何人も聞いている。血の跡の目撃者は多数。



 この件が、シンシアが隠していることだろうか?


 姉が帰って来た翌日、リヒターに『最近裏町で、王宮のことで話題になっていることはある?』と尋ねた。言葉はかなり慎重を期したつもりだ。

 だけどリヒターはすぐに、亡霊騒ぎだろ?と答えた。

 どんなに箝口令を敷いたって漏れるんだよ、だって。


 すでに恐怖から王宮を去った使用人は何人もいるという。毎朝廊下の血の跡の掃除をさせられれば、嫌気がさす者だっている。

 何も知らないのは呑気な貴族たちぐらいで、むしろ庶民界隈で、王宮は亡者の住処だと噂になり始めているそうだ。


 元々国民からの人気がゼロのユリウスが、在位二十周年の記念式典に税金を投入することに、庶民は憤っているのだ。そこにこの亡霊騒ぎだから、式典に良い添え物だなと、溜飲を下げているらしい。





 それにしても。

 亡霊って血という物理的痕跡が残せるものなんだ。

 知らなかった。


いつもお読みくださりありがとうございます。

オカルト嫌いの方がいらしたら、申し訳ありません。

お詫びにミニミニお口直し小話(全3回)です。

お読みにならなくても本編に影響はありません。


☆シンシアvsアレン☆

第①話


ちらりと目前でお茶を淹れているアレンを盗み見る。

ニンナが風邪でダウンし、彼女の代わりに今日はアレンがお茶の係りだという。

この好機に、前々から温めていた計画を今こそ実行に移すのだ!


「ねえ、アレン」

しまった、声が上ずった。アレンは変な生き物を見るような表情で私を見た。

「どうぞ、お茶です」

差し出されるお茶。

「あ、ありがとう。あのね、アレン」

「なんですか?」

ああ、この不遜な態度。どっちが下の立場かよくわかる。いや、負けてはダメだ。

「シェーンガルテンに行きたいの」

よし、言えた!


②に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ