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49・2予定、突撃

 リリーの結婚話は大きな衝撃だった。とはいえそれはまだ先で、私がクリズウィットと結婚してラムゼトゥール邸を出るまでは、彼女曰く『きちんと勤めあげる』そうだ。


 そのことに安堵して。

 問題はゲーム後半の展開についてだ。もしシンシアが、意図的に知っている出来事を書いていないのだとしたら。

 私は彼女を信頼している。まだ短い付き合いで、知らないこともきっと沢山あるだろう。だけれど彼女の態度に嘘があるとは思わない。

 ならば隠していることは、きっと私やルクレツィアにとって辛いことだ。

 それだけでなく、兄クラウスも関わってくるのではないだろうか。彼はバッドエンドの失踪だけでなく、ノーマルでも旅に出る。その理由は何なのだろう。




 いつもの待ち合わせ場所に行くと、私の顔を見たリヒターは、

「また何かあったのか?」

 と尋ねた。余程変な顔をしているらしい。

「今日は孤児院はお休み」

「休み?」

「うん。リリー伝てに、警備隊の人にパンは頼んだ。他に行きたいところがあるの」

「どこだ?」

「フェルグラート邸」


 僅かに沈黙がおりた。

「何があった?」

 そう訊くリヒターの声は普段より低かった。

「何もないよ。むしろ何があるのかを知りたいの。友達のシンシア・フェルグラートに尋ねる。本来ならちゃんと約束をしてから伺うべきだけど、不意討ちをして動揺してもらいたいの」

「よくわかんねえ」

「うん」息を吐き出す。「私も。彼女が何か隠しているんじゃないか、って考えているけど根拠があるわけじゃない。ただの勘。私を傷つけないように、ひとりで抱えこんでいるんじゃないかと心配なの」

「何を抱えているっていうんだ?」

「……多分父たちが二十年前にしたことに関連することのはず。だから私に隠すの」


 リヒターは深く息を吐いて、帽子の上から頭を掻いた。苛立っている。珍しいことだ。


「父さまは碌でなしだと思っているけど、嫌いじゃない。それでも犯した罪は重いし、その罰を受ける覚悟はしている」

 それが誰まで関わるかは不安だけれど。出来ることならルクレツィアにはジョナサンと幸せになってほしいし、クラウディア、クリズウィッドにもだ。


「仲がいいんだろ、お前たちは」

 吐息の後に零れた声は、また暗かった。

「うん」

「父親たちが犯した罪に子供は関係ねえ。俺は、そう考えるようになった」

「ありがとう」

 気配り上手でお人好しのリヒターは優しい。

「お前がそんな奴だからだぜ」

 彼はそう言って私の頭を撫でた。

「忘れんな、俺は、お前の味方だ」


 涙がにじむ。もう一度ありがとうと礼を言うとリヒターは

「そのシンシアって娘は、お前と兄の間で悩んでんのかもな」

 と言った。

 うんとうなずく。


 リヒターに促されて、フェルグラート邸方面に向けて並んで歩き始めた。

「ただね。ちょっと引っ掛かりはあるの」

「どんなことだ?」


 シンシアが隠す、私とルクレツィアが辛いこと。本当にそんなことが、まだあるのだろうか? リヒターに調べてもらって、私たちはもう大方のことを知っている。


 クラウスも関わっているとして。かつて私の父とユリウスは先代国王とその子供たちを殺め、正当な王位継承権第一位のクラウスを退け、権力の座についた。

 だけどこの時のクラウスはゼロ歳児だ。その後の境遇は辛いものだけど、あの人が赤ん坊のときのことを恨んで何か行動を起こすとは思えない。

 可能性があるとしたら、友人ウェルナーの父親の件だけど。それはあらかた知っているし、更に隠す重大なことがあるとも考えにくい。


 そうリヒターに説明すると低い小さな声で、そうだなとの返事のみがあった。


 そう考えるとシンシアは単純に私を気遣っているだけで、クラウスの旅立ちは関係ないかもしれないとも思う。


 なぜか無言になって黙々と歩く。

 すぐにフェルグラート邸が視界に入った。

 と、リヒターが足を止めた。

「あのよ、お前に頼まれた報告書」

「うん?」

「あれに書けなかったやつがある」


 見えない顔を見上げる。

「……私がショックを受けるから?」

 尋ねる声が震えた。うなずくリヒター。

「聞くか?」

「お願いします」


 リヒターが私の手首を掴む。くるりと踵を返し、フェルグラート邸から遠ざかる。

 また無言で黙々と長い時間を歩き、なぜか途中で彼が菓子をひとつ買い、ようやく足を止めたのは、小さく手入れの悪い墓地だった。


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