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48・3次のイベント

 シンシア作成のゲーム進行表を三人で覗きこむ。

 主人公とクラウスの間に起こる次の出来事は月末の舞踏会だ。新成人のデビュタントを兼ねる重要なもの。


 一方で主人公と悪役令嬢の間に起こることが何かは、わからない。シンシアは未プレイだし、この辺りの悪役令嬢についてはネット情報もあまりなかったらしい。仕方ないから、とにかく主人公を避けるしかない。

 少なくとも、デビュタント舞踏会ではきっと何かはやらかす予定だろうから、気を付けないと。


「だけどこのデビュタント舞踏会は、全くゲーム通りではないわね」とルクレツィア。

 シンシアはうなずいた。


 ゲームでは親密度が高いと、主人公はクラウスのエスコートで舞踏会に参加できる。そうでない場合も、王宮に着いてから話し掛けられる。

 そしてどちらの場合でも主人公はクラウスから、とあることを打ち明けられるのだ。

 その時の選択をうまくやると、二人で広間を抜け出して、誰もいない温室で花々に囲まれて熱い(!?)ダンスを踊るらしい。



 だけど現実には、クラウスはジョナサンの妹をエスコートすることになっている。

 妹は舞踏会出席を止めるつもりだったらしいけど、ジョナサンとクラウスで説得したそうだ。ワイズナリーは娘のデビュタントを楽しみにしていたから、弔いだと思ってほしいと言って。


 これではどうやっても主人公をエスコートできない。それに彼の性格を考えれば、ジョナサン妹をほったらかして他の女性と広間を抜け出したりしないだろう。

 可能性があるとしたら、ゲームの強制力が働いて主人公に有利な状況になるかどうかだけ。だけどシンシア曰く、今まで兄と三従者から集めた情報からすると、可能性は限りなくゼロだろうと言う。


「この『打ち明け話』って何かしら?」とルクレツィアは進行表を見ながら尋ねた。

「分からないわ」

 と答えるシンシア。目が泳いでいる。

 これはもしや、ダンスが苦手ってことではないだろうか。わざわざ広間を抜け出しているし。

 シンシアを見るが、彼女は他所を向いていてこちらを見ない。うん、当たりだろう。


「まあいいわ。でもこの秘密のダンスは怪しくないかしら。私たちが怒って文句をつけそうに思えるわ」とルクレツィア。

 シンシアも、そうなのよ、とうなずいた。

「とにかく恐ろしいのはゲームの強制力よね。勝手に主人公を咎めるような状況に陥らないように気を引き締めないといけないわ」

 そう言うと、ルクレツィアとシンシアはうなずいた。


「シンシアはまたアレンがエスコートなのかしら?」

 私の質問を彼女は赤い顔で肯定した。

「まずは一人きりにならないように気をつけましょう」と私。「ただルクレツィアにエスコート役がいないのが不安なの」


 私にはクリズウィットがいる。彼にダンスを誘われたら断りづらい。アレンは無理にシンシアをフロアに誘うことはないだろうけど。私たち二人が図らずとも同時にダンスフロアに出たりしてしまうと、ルクレツィアがひとりになる恐れがある。


「ウェルナーに頼むのはどうかしら?」

「遠慮するわ」

 何故か苦笑いのルクレツィア。

「どうして?」

「色々と複雑なのよ」

「何が?」

「説明が難しいわ」

 首をかしげて親友を見るが、彼女は説明をする気はないらしい。話題を変えるつもりなのか、手を打って、そうそうと声を上げた。


「この舞踏会までに内務大臣の孫が帰ってくるそうよ」

 内務大臣。ジュレール伯爵か。彼の直系の孫はシュタルク帝国に留学している。時たま帰ってくるけど、前はいつだっただろう。この貴族社会で数少ない、まともな青年だ。

「そう言えば、手紙が届いていたわ」とシンシア。

「手紙? 誰から?」と私。

「彼。ベルナール・ジュレールから。出掛けに届いたから、帰宅したら読むつもりだったの。帰国のお知らせなのかしら」

「「お親しいの!?」」

 私とルクレツィアの声が揃った。

 いいえ、とシンシア。

「兄……、ウラジミールの方ね、兄が生前お世話になったの。私は一度挨拶したことがあるだけ」


「「アレンにライバル出現!!かと思ったわ!!」」

 また二人の声が揃う。


「ちがうわよ」苦笑いのシンシア。「兄がね、ベルナールの留学に同行させてもらったのよ」


 記憶を探る。クラウスの異母弟のことはあまり調べなかった。交遊関係もよく知らない。けれど確かにシュタルクに行っていた。そうだ、思い出した。


「私自身はベルナールとは全く交流はなかったわ。だけど兄が亡くなったときに丁寧なお悔やみの手紙を下さってね。帰国したら墓参しますって書いてあったの。だからきっと届いている手紙は、帰国のお知らせね」

「だけど意外だわ。彼とお兄さまが親しかったなんて」とルクレツィア。


 私も私なりにかなり勉強した。内務大臣ジュレールはかつてはフェルグラート派で、その中でたった一人、要職に留まることが出来た人物だ。なぜなら先代国王陛下が亡くなるより前に、父一派に寝返ったからだ。

 父一派もフェルグラート派を一掃してしまうと、要職経験者がいなくなってしまう状況だった。だから彼を登用したらしい。


 ベルナールはそんな伯爵の孫で、直系の長男。祖父と父の後に爵位を継ぐだろう。よく二人が仲良くなれたものだ。周囲は反対しなかったのだろうか。


 シンシアは

「そうなのよね」と同意した。「ある日突然兄がシュタルクに行くと宣言したの。それも一時帰国していたベルナール・ジュレールが留学先に戻るのに同行するという形で、って。もうあちらの許可もとってあったわ。それまでジュレール家との繋がりはなかったし、屋敷中がパニックに陥ったの」

「あら、じゃあそれまで親しくはなかったの?」とルクレツィア。

「少なくともうちに遊びに来るような間柄ではなかったの。だけど多分、私が原因なのよ」


 シンシアは思い出しているのか、遠い眼差しをした。


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