48・2萌えポイント
ゲームでは年越しの舞踏会で、ルクレツィアと私は共謀して主人公にかなりひどい苛めをする。彼女をとある部屋に押し込んで閉じ込めてしまうのだ。
だから私たちは、ゲームの強制力でそんな状況に陥らないことばかりを気にしていた。主人公の姿がちらりとでも見えると遠ざかっていた。
自分たちが危険を回避することにしか意識がなく、ゲームで部屋に閉じ込められた主人公がどうなるのかを、すっかり失念していたのだ。
舞踏会の翌日、シンシアにもらったゲーム進行表を何気なく見ていて愕然とした。
主人公が押し込められた部屋では、偶然にもクラウスが休んでいるのだ。
それまでに好感度が十分に上がっていると、他では一切見られない服を着崩した色っぽい姿が見られるらしい。
更にここで選択肢を上手く選べば、ギリギリ年齢制限にひっかからない程度のいちゃラブ展開(!)があるという。
この説明のところにシンシアは赤字で『ここをプレイしてないことが、最大の後悔!!』と書いている。クラウス推しには一番の萌え(悶え?)ポイントらしい。
……。
いちゃラブはもちろんなかったけど。
部屋に二人っきり。
見たことのない、緩めた首もと。
正直なところ、きれいな首だなと思ったよ。ええ。だって一番人気のキャラだもん。さすがモテキャラ、色気があるなとも思っちゃったよ。
これ、絶対に主人公に起こるやつだよね。
どこがどうなって私に起こったんだ。
あの晩ふたりで話していたことは、私たちとブルーノ、アイーシャ四人だけの秘密ということになっている。
クリズウィッドが怒るからだ。
あの後広間に戻ったときの彼の顔は忘れられない。怒りと心配とがない交ぜになった複雑な顔をしていた。そして、良かった!と叫んで私の手に口づけた。
アイーシャが妖艶な笑みを振り撒きながら、上手く場を収めてくれて、私は咎められることはなかった。
勿論謝罪は心をこめてした。
そんな訳で、ルクレツィアとシンシアにも話せない。
心苦しいけど。
いくら疲れていたとはいえ、確かに私は考えなしだったと思う。
あの人は私を破滅に導く人だし、それがなくても取り巻き軍団が怖い。
本来なら、あの部屋に彼がいるのを見つけた時点で出ていくべきだったのだ。
でも。
あそこにいたのがクリズウィッドなら、即出ていた。
ジョナサンや他の青年でも。
ウェルナーなら、ラッキーと声を堪能したと思うけれど。
正直なところ、クラウスなら他の青年にするような警戒をする必要がない。取り巻き軍団にはチャラいとしても、ルクレツィアや私にはいつだって紳士的な振る舞いだ。だからついつい、退避よりも休息を選んでしまった。
そんな訳で私が軽率だったせいか、主人公に起こることが悪役令嬢の私に起こった。
それなら悪役令嬢のルクレツィアに起こることが、同じく悪役令嬢のシンシアに起こることだって十分にあり得ると思うのだ。
しばらく考えていたシンシアは、
「わかったわ」と、私の目を見て微笑んだ。「確かに細かい差違があるのだから、悪役令嬢の交代だってあるかもしれないものね。気をつけることにするわ」
ルクレツィアもそうねとうなずく。
ほっとして、私も笑みを浮かべた。




