46・〔閑話〕護衛の手の中
裏町のリヒターのお話です。
お人好しのポンコツの姿が見えなくなるまで見送ってから、くるりと向きを変える。だが歩き出す前に、ポケットからもらったばかりのお守りを取り出した。
掌にのせてまじまじと見る。
厄除けのヒイラギと国花のヒナギクが刺繍された手作りのお守り。
刺繍はよく見れば何種類もの糸を使い素晴らしいグラデーションになっているし、糸目も美しい。丁寧で綺麗な仕上がりだ。時間をかけて作ったのだろう。
このお守りは有名だ。他人が持っているのなら、見たことがある。
異教徒と戦うための前線基地で、国軍の若い兵士たちがこれを見せあっている姿をよく見かけた。
かなり古い習わしと聞く。国家のために働く兵士に恋人が贈るもの、らしい。
彼女はきっと、リリーが作っているのを見たか聞いたかして、俺に作ったのだろう。言ってたとおりに、普段の礼のつもりの軽い気持ちで。
リリーはどうして、恋人間のお守りだと説明しなかったんだ。それともリリーがそこまで知らなかったのか?
その方があり得るか。でなければあの忠義者は、主人にこんなものを作らせないだろう。
こんな、誤解されかねない代物を。
掌に載せ、俺を見上げるはにかんだ顔。
分かっていても、勘違いしそうになる。
これは好きな男に渡せと言った方がよかったか?
だがきっと受け取ってはもらえない。
それとも王子に悪いからと断るべきだったか?
手の中のそれを握りしめる。
たとえ『礼』以上の意味がなくても、俺にとっては……。




