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46・2お守り

 真逆の二人、裏町のリヒターと警備隊のモブ君とに挟まれて教会に着くと、待ちかねていた子供たちがいつも以上に元気にお出迎えをしてくれた。

 サニーがばふん!とリヒターに抱きついて嬉しそうにしているのを見たモブ君が、意外そうな顔をする。すかさず子供に優しいんだよ、とアピール。

 するとモブ君はじっと私の顔を見て、それからこそっと、


「だからと言って、惚れる相手も選んだほうがいいぞ」


 そう囁いて、仕事に戻って行った。

 ろくに親しくもないモブ君ですら、私の気持ちに気づくのに、どうしてリヒターは分からないのだろう。

 分かっていながら気づいてないふり、という感じではない。

 余程、私は恋愛対象外のお子様なのだろう。


 春に出会ってから、バカンスの間を除けば、週に一回会っている。私がクリズウィッドと結婚したくないこと、なぜなら他に好きな人がいるから、ということも知っている。

 だけどリヒターは、一度も私の好きな人がどんな人なのか、尋ねたことがない。


 ただの一度もだ。

 きっと興味がないのだ。

 リヒターにとって、お金になりそうな案件でもないしね。



 ◇◇



 プレゼントとお菓子をリヒターと二人で配り、その後はみんなで遊んだ。なんとリヒターも参加したのだ。初めてのことだ。


 小さい子たちを順番に肩車したり、抱えてぐるぐる回転したりと、私やロレンツォ神父では出来ないことをしてくれた。おかげでリヒターは大人気で順番待ちの列ができたぐらいだ。


 リヒターは、クリスマスだけの大サービスだかんな、と何度も念押ししてはいたけれど、それぞれの子が飽きるまで何回だって繰り返してあげていた。


 やっぱりお父さんだ、と言ったら怒られたけどね。




 子供たちと遊ぶリヒターを見ていてふと、もしかしたら私はあちら側なのかもしれないとの考えが浮かんだ。

 彼が本当に三十一歳なら、私は十四も年下だ。子供か年の離れた妹のように思われているのではないだろうか。

 アイーシャを見慣れた目には、おうとつが緩やかな私なんて女の部類に入ってない可能性は大いにある。


 普段から胸にタオルを詰めてみる?

 もう少し色っぽく笑うようにする?


 でもそんなの、私じゃないしな。だいたいタオルなんて元修道士にだってバレるのだから、リヒターにだってすぐにバレるだろう。






 リヒターにはまだ話していないけれど、クリズウィッドと私の婚礼の日が決まった。昨晩、父から知らされた。

 当初の予定どおりに、ユリウス国王の在位二十周年記念式典の翌週だ。三月になるからゲーム終了後となる。無事に断罪を乗りきったら、あとは結婚へまっしぐらってわけだ。

 年が明けたら、ストップしていた結婚の準備が再開するという。


 リヒターと一緒にいられるのは、あとふた月半しかない。

 逃げるかどうかは置いておいて。

 私の未来がどうなろうとも、リヒターに会えるのはあと少し。

 大事に過ごさないとね。

 そして最後の日には。

 好き、と伝えたい。



 ばふん!とサニーが抱きついてきた。

「アンヌさま、大すき!」

「ありがとう」

「リヒターもだよ!」

「そうね」

「らいねんのクリスマスもふたりできてね!」


 コラッ、と年上チームがサニーを怒る。私を見て、気にしないで、って焦った顔をしている。大きい子供たちは、私が第二王子と婚約していると、ちゃんと理解しているからだろう。

「プレゼントは絶対に送るからね」

 そう言って、みんなの頭を順番に撫でるしかなかった。





 ◇◇




「あー疲れた」

 孤児院からの帰り道。ぼやきながら歩くリヒターに笑みがこぼれる。

「大活躍だったものね」

「あいつらしつけえんだよ」

「リヒターは良いお父さんになるよ」

「やめろ、そんな年じゃねえ」

「三十一は立派なお父さんのお年頃だと思うけどな。うちの兄なんて三十前だけど子供は二人もいるよ」

「……呑気な貴族と一緒にすんな」


 兄は出来損ない放蕩息子であって、確実に呑気ではないけれど、突っ込みはやめておく。

 ちなみに兄と同い年のオズワルドも子供が二人。更にウェルナーも同い年だけど、彼は子供の前にそもそも未婚。


「リヒターはいずれ都を出て行くんだよね? その後はどうするの? また傭兵に戻るの?」

「まあ、そんな感じだな」

「だけど最近は異教徒との争いはないよね。仕事はあるのかな」

「それだけが仕事じゃねえよ。地方なんかは警備隊が足りなくて傭兵を雇う領主もいんだから」


 そういえば以前、旅の最中に盗賊に襲われたときに、警備隊が言ってた気がする。人数が足りてないから犯罪が増えてしまう、と。


「……地方に行くの?」

「さあね。まだわかんねえよ」


 リヒターは私の頭を撫でた。

「なんでそんな顔をすんだよ。俺はそうそうやられねえぞ?」

 私、どんな顔をしているのだろう?


「あのね」

 服のポケットから小さなお守りを取り出す。片面には厄除けのヒイラギが、もう片面には国花のヒナギクが刺繍してある。

「これ、お守り。作ったの。よかったら」


 リリーによると。

 警備隊や近衛兵、軍人の恋人がいる娘は、クリスマスにこのお守りを作って贈るのが習わしなんだそうだ。

 リリーは『友達』のために作っていたらしい。


 その話を聞いたときは、リヒターには恋人(のような人)がいるから、作るつもりはなかった。だけど先日、本当に恋人じゃないと知ってしまった。


 だから図々しくも、作った。

 本来なら中に自分の髪を入れるらしいけど、それはさすがに如何なものかと思うので、代わりにヒイラギの葉を入れた。


 掌に乗せて差し出したけど、リヒターは見ているだけだ。

「いらない?」

 やっぱり手作りのプレゼントなんて迷惑だったかな。


「……俺が貰っていいのか?」

「うん! リヒターのために作ったんだもん!」

 しまった。このセリフは重いかな。

「いつも助けてくれるお礼だよ」

「そうか」

 リヒターはお守りを指先でつまみ上げ、それから握りしめた。

「ありがとよ、お人好し」


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