4・1エスコート
王宮に到着すると家族とは別れて、クリズウィッドを待った。広間に入る前からエスコートしたいと言われたのだ。
リヒターには、王子はそれなりにお前を気に入ってんじゃねえの、と言われた。だけどそんなことはないと思う。
宰相である父に気を遣っているか、妹に気を遣っているかのどちらかだ。彼からは妹の友人としての好意しか感じたことがない。
それほど待つことなくクリズウィッドが現れた。柔和な笑顔で待たせたね、と言いかけて目を見張る。
「……今日はずいぶんと気合いが入っているね」
目尻を下げる婚約者。私はきっちりと正装をしてきた。髪は美しく巻き上げて、胸元のあいた華やかなドレスに豪華なアクセサリー。いかにも公爵令嬢という装いだ。
「だってルクレツィアがちゃんとなさいと言うから」
あまりしない正装に、気恥ずかしくなる。
「とても素敵だ」
クリズウィッドは私の手を取り、指先にキスをする。
すっかり慣れたはずなのに、リヒターが変なことを言うからドキドキしてしまう。
何しろクリズウィッドは攻略対象だからね。文句なしのイケメンだもの。時々彼にはキラッキラのフィルターがかかっているのかなと思うときがあるよ。
そんな彼にエスコートされて大広間に入る。普段より人が多い。
「みんな新公爵目当て?」
「だろうな。都の社交界が総出だ。だがまだ来ていないらしい」
友人知人見知らぬ誰かに挨拶をしながら、ルクレツィアを探す。
そうしてだいぶ進んだ奥地の壁際の長椅子に、姉と二人、ポツンとしている彼女を見つけた。私を見て、淑やかに片手をあげ微笑む。
かわいい。
絶対、悪役令嬢になるような娘じゃない。
むしろクラウディアの方が、気の強いぶん素質はありそう。気のいいお姉さんなので好きだけどさ。
彼女もブラウンの波打つ髪と鳶色の瞳だ。ルクレツィアとよく似ている面立ちだけど、妹が穏やかな容貌なのに対して、勝ち気そうだ。
私たちは挨拶を交わしお互いの装いを褒めあう。終わると私はルクレツィアの隣に座った。
広間を見渡……そうにも人が多すぎる。
この騒ぎっぷり、父様は気に入らないだろうな。自分が常に目立っていないと我慢ならないタイプだから。
と。多くの人で騒がしかった大広間が、徐々に静かになり始めた。それも扉側の一角から徐々に、まるでさざ波が寄せてくるかのように、静寂がやってきたのだ。
なんだろう。
ルクレツィアと顔を見合わせる。
だが、すぐに原因が現れた。
静寂の中を青年が優雅に歩いている。噂の人物、フェルグラート家の新当主だ。確かに、すごい。ゲームでの印象が霞む。銀の髪に白磁の肌。美しく怜悧な顔立ちに抜群のスタイル。しかもこれだけ注目を浴びながらも、物怖じすることもなく堂々としている。
この世界、乙女ゲームの世界だけあって美男美女がゴロゴロしているけれど、彼は群を抜いている。
大丈夫かな、とそっとルクレツィアを見ると、バチリと目が合った。彼女も私を見たところだったのだ。お互いに瞬いて、それから小声ですごいねと言い合った。
お互いに一目惚れはしなかったようだ。ゲーム効果でいきなり好きになったらどうしようと不安だったけど、杞憂に終わった。第一関門突破だ。
クラウディアは目が輝いていたけれど、彼女はゲームキャラではないから大丈夫。
ほっと肩を撫で下ろした。




