表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/251

41・1クラウディアの厄介事

 蝶の間事件から丸一ヶ月。王宮出入りの解禁日は、怪文書が見つかった週の金曜日。つまり殺人事件が起こるかもしれない日の初日だ。


 その日は舞踏会があった。元々は欠席の返事をしていたのだけど、父に頼んで参加に変更した。

 理由その一は、殺人事件のため。その二はシンシアがデビューするため。


 シンシアも欠席の予定で、彼女が参加の返事をした舞踏会は再来週のものだった。だけれど彼女も優しい兄に頼み込んで、変更してもらったのだ。内緒で、彼を守るために。兄には、私をつまらない噂から守りたいから、と説明したそうだ。


 私はいつもの広間で兄妹が来るのをドキドキして待った。いつの間にかルクレツィアと手を握りあっていた。お互いにシンシアが辛い思いをしないかが不安なのだ。


 と、クラウディアがものすごい勢いでやって来て、ルクレツィアの隣にストン!と座った。

 彼女の背後にはジョナサン弟がいた。

「ふん! オレに負けるのが怖いのだろう!」弟。

「しつこい! お子さまは願い下げよ!」とクラウディア。


 私は訳がわからなくてルクレツィア、クリズウィッド、ウェルナーと顔を見渡す。みんなうんざり顔だ。どうやらこの状況に慣れているらしい。私がいなかったひと月の間に一体何があったのだろう。


「実はね」とルクレツィアがこそりと囁く。「彼、お姉様をどうしても許せないみたいなのよ」

 弟は粘着質だったのか。向こうが先にちょっかいを出してきたとはいえ、クラウディアはまずいのをつついてしまったらしい。

「それでね、もう一度交際しろって」

「へ?」

 思わず公爵令嬢らしからぬ声が出た。意味がわからない。ルクレツィアもあきれ顔だ。

「次は絶対にお姉様を夢中にさせてみせる、それからポイ捨てしてやる、って息巻いているのよ。ここひと月近く」

「えええ?」


 なんだそれは? ますます意味不明だ。

 復讐(?)するにしても、ポイ捨て予定を相手に公言するのはおかしくないだろうか。


 ちらりと、まだ言い争いをしているクラウディアと弟を見る。

「プライドを立て直すには、それしか思いつかないのだろうな」と笑いを含んだ声のクリズウィッド。「なんだかんだ、まだ十六歳。社交界デビューして一年に満たないお子さまだ」


「もう! わかった!」

 クラウディアの声にみんな一斉に彼女を見た。

「クラウスより上手くなったら、もう一度付き合ってあげるわ」

 何が!?

 弟の顔がみるみる険しくなる。

「俺があいつより下手だというのか!」

「あら、知らなかったの? お気の毒さま!」


 弟はきっとクリズウィッド、ウェルナーを睨む。だが、睨みたかったのは彼らではなかったようだ。すぐに視線を広間に向けた。眉間に深いシワを寄せて辺りを睥睨する。


 それから無言で去って行った。


「クラウスに悪かったかしら」と落ち着いた声のクラウディア。

「お前たち、いつの間にそんな仲に……。おめでとう」と微妙な表情のクリズウィッド。

「あら、どんな仲でもないわよ」涼しい顔のクラウディア。「私は『何が』上手いかなんて言ってないもの」


 吹き出すウェルナー。ため息をつく兄と妹。


「クラウスが上手いのはね」とクラウディアは妹越しに私を見た。「バカラよ。負けたのを見たことがないわ」

「いや」とクリズウィッド。「あいつはカードゲーム全般、勝ち負け自由自在だ。シュタルクの大使と父上には上手く負けている」

「すごいわね。いかさま師になれるわ。修道院で流行っていたのかしら」

「そんなわけがないだろう」とクリズウィッド。

「彼の三従者もみんな強いですよ」と笑いを含んだウェルナー。

「修道士は賭け事は禁じられているのではないか?」

「さて?」とウェルナー。

 楽しそうな年上チーム。


 クラウスはカードゲームも必死に練習をしたのかな。ダンスだって、もう見違えるような優雅さだ。見栄っ張りなんだかイメージ戦略なんだかは知らないけれど、凄まじい努力家であることは間違いない。


 と、ジョナサン弟が戻ってきた。険しい顔でクラウディアの前に仁王立ちだ。

「おい」

 と八つも年上の王女に不遜な声の掛け方をする。

「あの男より上手いって、近いうちに証明してやる」

 あらそう、と素っ気ない返事のクラウディア。

「俺が勝ったら新年の舞踏会をエスコートさせろ! いいな!」

「証明できたらね」とクラウディア。

「首を洗って待っていろ! 絶対に俺に惚れさせてやる!」

 再び去るジョナサン弟。


 クラウディアは首をかしげた。

「バカラって分かっているのかしら。何をどう証明するつもり?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ