37・5雑貨店
喫茶店を出た私たちは初めて会った雑貨店に行った。
私はリリーにお礼の品と、もしまたリヒターとお出掛けが出来たとき用の可愛らしい髪飾りを買いたかった。
シンシアは今日王宮に出向いた自分へのご褒美を買うという。
二人で店内を見ていると、顔見知りのご令嬢たちに会った。軽く挨拶をしてすれ違ったあとに、こそこそと話す声が聞こえた。またか、とため息をつく。
「……アンヌローザ。三人でお揃いの何かを買わない? ルクレツィアには私がプレゼントをするわ」シンシアはにこりとしている。「前世で友達とお揃いってしなかった?」
「そうね、したわ。懐かしい」言われて気がついた。「私、お友達とお買い物をするのは初めてだわ」
ルクレツィアは外出の許可取りが大変だからだ。
「私も!」とシンシア。「いつかルクレツィアも一緒に来たいわね」
そうね、とうなずいて改めて二人で品物を見てまわる。
夢中になっていると、どしんと背中に誰かがぶつかってきた。振り返ると、見たことのある、だけれど話したことのない令嬢がいた。
「申し訳ありません!」とその令嬢。「夢中になっていて気づかなかったのです」
「こちらこそ、ごめんなさい。私も夢中で」
そう言うと、その令嬢は柔らかな笑みを浮かべた。
「お優しいお言葉をありがとうございます」
驚いて瞬く。今日はずっと影口ばかりを言われていた。なのに彼女の笑みも言葉も本物に見えた。
その令嬢の隣にいた令嬢も、柔和な顔で軽く会釈をする。
「こちらこそ、ありがとう。そのお気持ちがとても嬉しいわ」
◇◇
買い物を終えて高揚した気分で店の出口へ向かおうとしたら、あの、と声をかけられた。先ほどの二人の令嬢だ。お呼び止めしてすみません、と言う。
「私たち」とぶつかったご令嬢が言う。「貴族の末端なので、アンヌローザ様とお話する機会はございません」
シンシアと顔を見合わせる。
「確かにお話しするのは初めてかと思うけれど、家柄は気にしないわ。どうぞ気軽に声をかけて下さいな」
「存じてます」と令嬢は頬を染めた。「今の言い方はよくありませんでした。私たちが気後れするので、お話ししたことがありません」
もう一人の令嬢もうなずいている。
「ですがあなた様はいつも、私たちにも分け隔てなくご挨拶してくださいます。家柄の高い方ではアンヌローザ様だけです」
「そうなの?」
はい、とうなずく二人。
「いつも穏やかで親切で、良い方だと思っています」と最初の令嬢。「つまらぬ妄言が流行りのようですが、信じていない人間もいます。そのことをお伝えしたくて、声をかけさせていただきました」
思いもよらなかった言葉に胸がいっぱいになる。
「見ている方はちゃんと見ているのよ」とシンシア。
「そうね」声が震える。「ありがとう。とても心強いお言葉だわ」
二人の令嬢は微笑んだ。




