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37・2 エンドは確定?

 夕方にはクラウスから手紙が届いた。

 自分のせいでまた濡れ衣をきせられたことへの謝罪と、ショックを受けていないだろうかという心配が、美しい字で丁寧に書かれていた。


 あの人自体は悪い人じゃないんだよね。

 どうしてこう、私を悪役令嬢にしてしまうのだろう。私も困るけれど、彼も責任を感じてばかりで気の毒だ。


 気にする必要はまったくない、との返事を出したけど、気は重い。


 もう一通の手紙を開く。そちらはシンシアから。やはり謝罪から始まっている。事件が変質して起こる可能性を考えなかったことへの詫びだ。そんなの私だって予測してなかったし、彼女が謝る必要なんて微塵もないのに。ルクレツィアといいみんな友達思いだ。

 とりあえず明日の午後、対策会議をしようと言うので了承の返事を出した。




 ◇◇



 いつもの喫茶店につくと顔見知りの令嬢たちに会った。向こうはあからさまに表情を変えて、こそこそと囁きあっている。噂を信じているのだろう。

 私はそんなに弱くはないけれど、さすがにへこむ。アンヌはそんなことはしない、と分かってくれる人の少なさに。


 店内のいつもの席には既にシンシアがいた。何やら険しい表情をしている。私に気づいて笑顔を見せたけれど、どこか強ばっている。


「心配させてしまってごめんなさい」

 挨拶を済ませてそう言うと、彼女は首を横に振った。

「考えていた以上に悪役令嬢ルートに乗っているのよ。全員で共闘しましょう」

 力強い表情と声。心強い。

「午前中に王宮へ行ってきたの」

 シンシアの言葉に目を見張る。彼女は私の驚きように照れ臭そうな顔をした。

「この前のようなこっそりじゃないわ。正面突破よ!」

「まあ! どうしたの、一体?」

「ルクレツィアと相談をしてきたのよ」


 にこりとするシンシアを見つめる。あんなに他所の令嬢を怖がっていたのに。私のために王宮に行ってきたというの?


「シンシア」彼女の手を取る。「お気持ちが嬉しすぎて泣きそうだわ」

「いやだ、クラウスと同じことを言っているわ」と彼女は苦笑した。「『友達のために王宮へひとりで行くなんて、成長が嬉しくて泣きそうだ』ですって。ここが日本ならお赤飯を炊きそうなくらいの喜びようで、ひいたわ」

 つられて私も笑う。

「良い兄じゃない」

「一年前には私の顔も知らなかったのにね」とシンシア。「あんな人を疎んじて修道院に入れて放置していたなんて、うちの親は鬼畜だと思うわよ」

 私が微妙な顔をしたのだろう。

「両親も反省はしているようよ。母も一応『母親』らしくしているから」


 注文したお茶とケーキが届き、話は一旦中断した。

 給仕がいなくなると、この話は今は必要ないわね、とシンシア。


「とにかくあなたを守らないといけないでしょう?」

「ルクレツィアもまずい噂が立っているって」

 ええとうなずくシンシア。

「聞いたわ。だけどまだ、あなたほどひどい状況ではないわ。主人公をいじめていることになっていないから」

 そうか。いじめていなければ、ハッピーとノーマルのエンドに起こる断罪は多分起きないだろう。


「実は昨晩、クラウスにある程度話したの」

 ある程度?と首をかしげる。

「あなたが前に、占いでクラウスに関わると破滅すると出た、と話したのでしょう?」

 うなずく。

「私は黒風邪のときに夢を見たってそのままを話したのよ。当時はただの夢だと思っていたけれど、クラウスとアンヌローザに会ってから正夢じゃないかと不安でいたの、って可愛らしく怯えてね。ちなみに全てのエンドを話すと嘘くさいから、各エンドをうまくミックスしてみたわ」

「それでどうなったの?」

 シンシアは、信じたわ、と答えた。

「あなたから占いのことを聞いていたからでしょうね。蒼白になっていたわ。主人公と上手くまとまらないとあなたがルクレツィアと刺し違えると知って、頭を抱えていたわよ。昨日、彼女を泣かせてしまったみたいね」

「よく信じたわね。どう考えたって突拍子もない話なのに」

「彼にも思い当たる節があるのよ」とシンシアは肩を竦めた。

「ええ? 何?」

「秘密」

 思わぬ返事にまたたく。

「秘密?」

「そ。これはクラウスのことだから、私には言えないわ。この件は本筋に関係ないから大丈夫、安心して。ただ彼が納得するには十分ってだけだから」

「気になるわ」

「なんだったら本人に聞いてね」

「わかったわ」

 シンシアは何故かくすりと笑った。


「クラウスってゲームだとチャラい女好きキャラでしょう? 今もそう思われているようだけど、本当は違うのよ」

 彼女はカップを口に運ぶ。

「もしかしたら一人二人は本当にそういう関係の人がいるかもしれないけど。あれもイメージ戦略のようよ」

 そういえばダンスレッスンのときもその言葉を聞いた。

「なんのためのイメージ戦略なの?」

「さあ。ただ四人でそんな話をしているのを聞いただけ」とシンシアは肩を竦めた。「だから刺し違えを避けたいなら、主人公を口説いて愛されてると勘違いさせてみてって頼んでみたのだけど、」

「ええっ!!」思わず大声が出て、慌て口をふさいだ。「それは嘘だとバレたときに余計に恐ろしいわ」

「大丈夫」と苦笑するシンシア。「言い終える前に却下されたから。女たらしキャラなのに」

「よかった!」

「よくないわよ。だってクラウスは主人公が嫌いなの。このままだとバッドエンドにまっしぐらだわ」


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