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妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?  作者: 木山楽斗
本編

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第35話 決まっていた答え

 ロヴェリオ殿下がヴェルード公爵家を訪ねて来ることは、最早珍しいことではない。

 私がここに来てからだけでも、何度も彼を迎え入れてきた。それは私にとっては、既に日常となっている出来事だ。故に彼に対しては失礼かもしれないが、特に緊張もしなくなっていた。

 だけど、今日のロヴェリオ殿下の様子に、私は久し振りに彼と対面する緊張というものを思い出すことになった。ロヴェリオ殿下はとても、真剣な顔をしていたのだ。


「ロヴェリオ殿下、今日はどうしたのですか?」

「え? ああ、いや、その、クラリアに話があって……」

「話、ですか」


 そんなロヴェリオ殿下と客室で二人きりで向き合っているという状況には、色々と感じざるを得なかった。

 何か真剣な話でもあるのではないだろうか。その予想は、多分間違ってはいない。問題はその内容である。

 もしかして、先日のマネリア嬢の顛末を知らせようとしているのだろうか。しかしそれは既に聞いているし、こんなに緊張するようなことでもないような気がする。


「……単刀直入に言わせてもらう。回りくどいのは良くないからな」

「ええ、それはそうですね」

「俺はクラリアのことが好きなんだ」

「…………え?」


 ロヴェリオ殿下の言葉に対して、私は固まっていた。

 頬を赤らめて、私を真っ直ぐに見つめる彼の言葉の意味なんて、考えるまでもない。これはつまり、異性として好きだという告白なのだろう。

 それに私は、動揺していた。まさかロヴェリオ殿下に好意を抱いてもらっていたなんて、思ってもいなかったことだからだ。


「ロヴェリオ殿下が、私のことを……」

「その、驚かせてしまってすまない。だけど実は、ずっとそう思っていたんだ。いつからそう思うようになったのかは、よくわからないけれど……」

「そうだったのですか……」


 私は、ゆっくりと深呼吸した。

 ロヴェリオ殿下の突然の告白というものは、すぐに受け入れられるようなことではなかった。故に一旦、落ち着くことにしたのだ。

 私は、ロヴェリオ殿下の方を改めて見てみた。深呼吸したおかげか、幾分か冷静になることはできている。故に彼の真剣さというものが、より伝わってきた。


「ロヴェリオ殿下、あなたからそう思われていたことを、私は嬉しく思います。その告白への返答を、しなければなりませんね」

「あ、ああ……」


 私は、ロヴェリオ殿下の目を真っ直ぐに見つめていた。

 当然のことながら、私は答えを出さなければならない。その答えは決まっている。故に私は、ゆっくりと口を動かした。


「ロヴェリオ殿下、私もロヴェリオ殿下のことが好きです」

「クラリア……」


 私の言葉に、ロヴェリオ殿下は目を丸めていた。

 彼にとって、それは当たり前だが驚くべきことであったようだ。私も彼の告白には驚いた訳だし、これでお相子ということだろうか。

 いや、勇気を持ってそれを口にしてくれたロヴェリオ殿下の方が、きっとずっと偉い。私なんかは乗っかっているだけだ。それは我ながら、少し情けないような気もする。


「ロヴェリオ殿下は、いつも私のことを気遣ってくださって、守ってきてくれました。私もいつから好きになったのかはわかりません。でも初めて出会った時から、もしかしたらずっとそうだったのかもしれません。叶うものだとは、思っていませんでしたが」

「……いいや、叶えるさ。俺はクラリアと結婚する。父上や叔父上が反対したって、突き通してみせる。俺はこれからも、ずっとクラリアと一緒にいたい」

「ロヴェリオ殿下、ありがとうございます。私、本当に嬉しいです」


 ロヴェリオ殿下の言葉に、私は笑顔を浮かべていた。

 でも、少しだけ泣きそうだ。でもそれは我慢する。今は二人で、笑っていたかった。


「……うん?」

「ロヴェリオ殿下? どうかしましたか?」

「いや、その、なんだか気配が……」

「気配?」


 そこでロヴェリオ殿下は、部屋の戸の方に素早く近づいた。

 それから彼は、一気に戸を開け放つ。すると私の目に、見知った人達が映った。


「お、お兄様方……」

「むっ……」

「ご、ごめんなさい……」

「これはこれは……」

「あはは、やっぱり気になっちゃって……」

「面目ないね……」


 どうやらお兄様方が、部屋の外で私達の会話を聞いていたらしい。

 それによって、私の体は一気に強張った。流石に今のを聞かれていたのは恥ずかしい。


「アドルグ様、皆にばらしたんですか?」

「……ばらしたということはない。皆、悟ったというだけだ」

「その、アドルグお兄様が聞き耳を立てているのを見つけたのです、ロヴェリオ殿下」

「やっぱり発端じゃないですか!」


 ロヴェリオ殿下は、アドルグお兄様に抗議していた。

 その言葉によって、アドルグお兄様だけは事態を把握していたことを私は理解する。

 そのお兄様が聞き耳を立てていれば、まあ事情はすぐに察せただろう。その結果、皆で聞き耳を立てていたなんて、それはなんというかひどい話だ。


「ふふっ……」

「クラリア? なんで笑って……」

「ロヴェリオ殿下、私は今、とても幸せです」

「……そうか」


 私は思わず、笑顔を浮かべていた。

 ヴェルード公爵家に引き取られることになってから、どうなるかと始めは思っていた。だけど今は、こんな風に温かい人達に囲まれている。

 それはとても幸福なことであった。私はこれからもきっと、笑って暮らしていけるだろう。この温かい家族達とともに、日々を歩んでいくのだから。

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