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第二一話 緊急報告

2020年12月25日・ルグドラクール共和国・キャンプユニマ


UNIMA TWR(ユニマタワー),COSMO1(コスモ1)Lady.(離陸準備完了)

COSMO1(コスモ1),Runway24(滑走路は24).Line up (滑走路へ侵入、) and(そして) wait(待機せよ).』


 その日、日没後の暗い基地の滑走路には一機のC-2輸送機が待機していた。その積荷は兵士100名、そして所用で本土に送る兵器や書類等。機体は地面に埋め込まれたライトに照らされながら、帰国の時を今か今かと待ち望んでいた。

 去る12月17日に起きたPKOヘリ撃墜事件により、延期されるのではないかと思われていた兵員の本国帰還は、しかし予定通りに実施されようとしていた。

 交代第一陣の兵士50名は既にルグドラクール共和国・ルグドラクール国際空港に到着しており、こちらに向かっている最中だった。


「なんだと!」


 その基地の一室。部下から報告を受けるなり、グラークは弾けるように席を立った。報告の内容が信じられないものだったからだ。


「本日一九〇〇(ヒトキューマルマル)時、ルグドラクール北部ファルナの町にて空爆を実施したと、合衆国より報告がありました。攻撃に使用したのは無人機とも」

「私はそんなこと聞かされていないぞ!」


 激しく詰め寄られ、私だって聞かされていませんよ、と部下は泣きたい気持ちになった。


「そもそも奴らはここに基地も……」


 かつて世界の警察を名乗った民主主義国家。名実ともにこの世界で一番の実力を持つ国である。が、そんな国であるが故に、大抵どこからも嫌われており、基本的にPKOには参加していない。ということは空爆するにも基地がないのである。

 と、そこまで考え彼は答えにたどり着く。


「ガルダーンの基地を使ったのかッ!」


 ガルダーンとは合衆国の北に位置する国である。国境線を隔てる両国であるが、何故か仲はいい。周り中敵だらけのザナからすれば羨ましい話である。

 そんな話はさておき、確かにこの地に合衆国の基地はないが、ガルダーンの基地ならあるのである。


「合衆国は今回の事件のことを知っているはずだな?」

「はい。既に周知しているものと考えます」

「生き残りがいる可能性があることもだな?」

「はい」

「なら何故爆撃なんてするんだ! すぐにガルダーンの基地に行って合衆国の責任者を呼び出してくれ! どうせいるはずだ。はぐらかされたら、我が国の偵察衛星が合衆国軍人のハゲちかした頭を確かに捉えたと言え!」


 言いながら、そんなこと不可能はことくらいはわかっていた。


「お言葉ですが副司令。爆撃された場所に我が国の兵士がいた確証も……いえ。むしろその可能性は低いと思われます。少し落ち着いてください」

「そうだな、落ち着きはする。が、考えてみたまえ。仮に平時の我が国が、他国から爆撃されたとして、我が国の空軍はどんな対応をとる?」

「それはもちろん二度と爆撃されないように防空体制の強化を──あ」


 なにかに気づいたように声を出す部下。

 グラークは深く息を吐いた。


「そうだ。防空体制の強化だ。次に敵が侵入してきても確実に()()()()()()()()()()。そしてもう一問問題だ。救出対象が敵地の奥にいた場合、我々がとれる救出手段は?」

「……ヘリによる救出です。それには制空権の確保が大前提となります」

「その通りだ。確かに北部武装勢力の航空兵力は満足に稼働できる状態とは言い難い。燃料が足りないというのが通説になっているからだ。しかしいくら燃料が足らなくとも、奴らにも曲がりなりにも国を自称する意地がある。無理してでも戦闘機をあげてくるぞ」


 ヘリはその性質上対空兵器には酷く脆弱である。その為救出作戦は何時如何なる時であっても奇襲攻撃であり、迅速に撤退することが求められるのである。

 この場合の奇襲とは、相手が準備できていない場所で、相手もまさか敵が来るとは思っていない場所で、短時間の集中攻撃で相手を混乱させることである。

 しかし、相手が予め準備しているとなるとこの作戦は非常にとりづらくなるのである。常に武器をその手に持っている相手を倒すのと、武器を机の上に置いている相手を倒すのとではどちらが楽かという話である。


「私はこれからザガルナール空軍基地に連絡をする。偵察飛行の中止を──」


 進言する、と言いかけたとき、耳をつんざくような爆音が轟いた。

 突如襲った爆炎と、花火のように表れた火球の存在に、グラークも部下も思わず腕で頭部を守るような反射反応を見せた。


「な、なにが起きた……」


 呆然と言葉にしつつも、なにが起きたのか、実際には理解していた。

 基地司令室の背面にあるガラス窓に映るのは、巨大な炎に包まれているC-2輸送機の姿があった。

 機体の中部が抉られたようになくなっているのは、何か外部からの攻撃を受けて爆発した証だった。


──ドッガァァァァンッ!


 しかしつかの間、機体は二度目の大きな爆発を起こした。エンジンが爆発したのだ。それにより機体は完全に火に包まれた。生存者がいないであろうことは明白だった。

 離陸前で大量のジェット燃料を積んでいた機体は勢いよく燃える。それはまるでトーチのようだった。

 黒煙をなびかせ激しく炎上する輸送機を見ながら、あの機にいったいどれほどの人数が乗っていたのかと即座に考える自分がいたことに、グラークは気がついた。


「ちゅ、中佐! 攻撃です! 我々は攻撃を受けていますッ!」

「早く消防隊を出せ!」

「副司令! 歩哨より連絡です。基地の外に武装した市民と思われる存在を確認したと!」

「どこだ? 正面ゲートか?」


 部屋に飛び込んできた大尉階級の兵士に、そんな間抜けな質問をしたのは、彼がまだ現実を飲み込めていなかったからだった。彼はまだこの事態を住民の暴動程度に捉えていたのである。


「全方位です! 我々は囲まれていますッ!」

「大尉、全員に戦闘配備を発令する! 全員叩き起こせ! 繰り返す、戦闘配備だ! 防御を固めろ! 装甲車をかき集めて──」


 三度目の爆発があった。場所は軍用車両が止めてある駐車場の辺りだった。

 あまりにおかしかった。駐車場は基地の奥まった場所に駐車している。それはもちろん、有事の際、敵の攻撃があった際に初撃で破壊されることを防ぐためだった。

 だが、現実はどうか? 何故こうも早く装甲車が狙われる? 迫撃砲にしては早すぎる。あれは照準を合わせるのにも、直すのにもかなりの時間がかかる。


「敵の攻撃手段はなんだ! 迫撃砲か?」

「追加報告です。兵士の中に無人機を目撃したと述べている兵士がいるようです」


 無線機を使ってどこかとやり取りしていた大尉が緊張し面持ちで報告する。

 部屋には更に二人の大尉と中尉が入ってきた。


「まず装甲車を退避させる。あれがなくなれば我々は格好の的だ。それから他国のPKO部隊にも急ぎ連絡、援護を求めよ。ガラクス海軍基地にも注意することを伝えろ。本国にもこのことを伝え航空支援を要請する。キャンプ・ユニマはこれより戦闘態勢に突入する。繰り返す、我々は戦闘態勢に突入する!」


 厳しい戦いになることを覚悟していた。おそらくユニマの兵士だけでは守りきることは難しい。その為に他国のPKO部隊の援護が必要だった。他国の中にはこの地に戦車を持ってきている部隊もいる。戦車さえあれば状況は変わるはずだ。

 そしてガラクス海軍基地というのはルグドラクール共和国に存在するもう一つのルグドラクール派遣PKO部隊の基地だ。こちらは主に海軍が使用している。ここが攻撃を受けたとなれば、向こうが攻撃を受ける可能性も十分に有り得る。


 大変なことになったぞ──不安と焦りと焦燥が、グラークの心を乱していた。

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