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ポーターさん最強伝説  作者: 京 高
九章

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1 新型ゴーレムと派生魔法

 近づいてきたゴーレムは、小型の偵察型よりも更に一回りは小さい個体だった。しかも周囲の壁や床に酷似した風合いの材質でできていた。


「パッと見ただけであれを見つけ出すのは難しいな……」


 周囲を探るように通路をじわりじわりと歩みを進めるそれを、ディーオたちはその先にある小部屋状になっている場所からこっそりと覗いていたのだった。


「完全に保護色になっているものね。ハイドマンティスとどちらが見つけ辛いかしら?」

「恐らくはハイドマンティスの方が厄介だろう。あいつはあくまでも周囲に溶け込んでいるように見えるだけだ。だけど、ハイドマンティスはその上気配まで絶ってくるからな」


 奥の階層に生息する魔物の方が、必ずしも強力で危険であるとは限らないのだ。


「そう考えると、影の中に体を隠すことができるシャドウハウンドって、とんでもない存在よね」


 八階層に生息しているシャドウハウンドは、影の中へとその身を潜ませることができるという厄介な能力を持っていた。

 その影の中というのは隔離された別の空間に近いので、気配も何もかもが感じ取ることができなくなってしまうのである。


「臭いだけは遮ることができないことが救いだな」


 嗅覚が発達しているシャドウハウンドは、敵や獲物の接近を臭いで感じ取る。そのため、臭いだけは互いの空間を行き来できる。

 そのため、シャドウハウンドが潜んでいる場所は獣臭く感じられるのである。


「ついでに血の臭いに酔いやすいこともね」


 血の臭いによって、シャドウハウンドは凶暴ではあるが単調な動きとなるので、それなりの経験を積んだ冒険者からすれば扱いやすい相手となるのだ。

 ディーオが初めて四人組と出会った時に、あっさりと襲い掛かってきたシャドウハウンド二匹を討伐できたのは、そうした部分もあったからだ。

 結局のところ、影に潜む能力さえ使われなければそれほど危険な敵ではないのである。


「おっと……、そうこう言っている間に近付いてきたな」

「だけど、まだ私たちのことを捕捉できていないみたい」


 彼我との距離は既に二十尺程度にまで縮まっていた。周囲の様子を探ることを得意としている偵察型であれば、こちらのことを察知しているはずの距離である。


「そうすると、あいつは偵察型の上位種ではないということなのか?」


 小柄な体躯と周囲に紛れるような体色、そして単体で運用されていることからディーオたちはそう予想していたのだが、これは考えを改めなくてはいけないかもしれない。


「つまり、完全な新型かもしれないのね」

「そう思っておいた方が無難だろうな。だが、問題は何を目的としているかだ」


 例えば、先程から名前の挙がっている偵察型であれば冒険者たち、ゴーレム側からすれば侵入者を発見し、その位置を他の兵士型や騎士型へと知らせることが主な目的となっている。

 小柄で身軽な体形をしているのは、相手に発見され難くするためであると同時に、仲間へと報告を行うまでの時間稼ぎや、仲間が到着するまでの足止めをするためという目的を達成するためである。


「こちらに気付かれ難いように、という部分は合っていると思うのだけど」

「ああ。間違いなくそれはあるはずだ」


 これだけ偵察型に似通っているのだから、その特性としても同じものが挙げられて当然のはずだ。

 だから重要なのはその次、その特性をもって何をするのか、という点なのである。


「足止めに時間稼ぎの方は……。できなくはないけれど、せっかくの保護色の意味がなくなりそう」


 ニアが指摘した通り、少しずつ近付いて来るそれは迷宮の表面に似た質感を持ってはいたが、動き回っていることでかえって浮き立つような存在感を放つことになってしまっていた。

 先の戦いで魔法使い型が延々と正面に向かって魔法を撃っていたように、本来の力を発揮できていないというか、ちぐはぐな印象を受けていたのである。


「……時間切れだな。考察は後回しだ、あいつを倒すぞ」


 十尺を切ろうかという距離にまで近付いて来たところでディーオは決断を下す。


「分かった。でも新型だとすればできるだけ良い状態で倒した方がよくないかしら?」


 その考えはもっともなものだ。動かないゴーレムならば安全に調べられるし、専門家ではなくとも何かは発見できるかもしれない。

 それに、冒険者協会に研究用の素材として高値で買い取ってもらえる可能性が高い。多少の無理程度なら押してでも挑戦してみる価値はあるだろう。


 しかし、やはりというかその無理が多少ではないところに判断の難しさがあった。

 まず、何と言っても相手は魔法生物であるという点だ。有機生命の魔物とは異なり、弱点らしい弱点と言えるものは動力源たる魔石しかない。

 しかもゴーレムなので、その魔石が体内のどこに存在するのか見当もつかないのである。極端な事例ではあるが、片方の足の爪先に魔石が埋め込まれていることすらあったのだ。


 加えて新型ということで、どんな未知の攻撃手段を持っているのか分からないという危険性もある。できることなら反撃の機会を与えることなく初手で倒しておきたい。


「待てよ……、アレが使えるかもしれない」

「上手く使えそうな当てが思い浮かんだのかしら?」

「ああ。だが、実戦初投入だから失敗する可能性もある。ニアもすぐに魔法が撃てるように準備だけはしておいてくれ」

「了解よ」


 やるべきことが決まったならば、無為に時間を浪費すべきではない。


「〈跳躍〉」


 ディーオは新型ゴーレムの後方、三尺ほどの位置へと移動すると、突如現れた気配に反応することができない相手へと向かって『空間魔法』を叩き込んだ。


「〈裂空・(かつ)〉!」


 上下に別れたゴーレムの体が直後縦に()けたかと思えば、更にそこから横、縦と亀裂が入り、合計十六の塊へと斬り分けられてしまったのだった。


「ぶはあっ!」


 ガラガラと崩れ落ちるゴーレムを視界の端に収めながら、ディーオもまた崩れるようにして座り込んでいた。


「ディーオ!?」


 そんな彼の元にニアが慌てて駆け寄ってくる。倒しきれたはずではあるが、その確認ができていなかったことを考えると軽装な行為である。

 が、この場にいるのは彼ら二人だけであり、野暮な正論を述べるものは誰もいなかった。


「大丈夫なの?」

「ああ……。どこか怪我をした訳じゃないから安心してくれ……」


 そう口にしながらも、彼の動きはかなり気怠そうな様子だった。

 先に答えを言ってしまうと、症状としては強力な魔法を用いたことで起きた一時的な体内の魔力不足による疲労である。

 これが魔力枯渇とでもいう状態にまで進行してしまうと、生命の危険すら起こりかねないのだが、幸いにしてそこまでは魔力を消費しなかったようだ。


「だけど、あなたがそこまで魔力を減らすなんて珍しいわね」


 しばらく休んだことで回復したのか、細かく分割されて倒されたゴーレムを〈収納〉で異空間へと送っていたディーオを見ながらニアが言った。

 わずか四歳という年齢で『異界倉庫』の能力に覚醒し、幼い頃から『空間魔法』の訓練をしてきたこともあって、ディーオは並の魔法使い以上の魔力量を体内に保持することができるようになっていたのだった。


 魔法の威力や効果は世界に満ちる魔力をいかに自身の魔力と同調させるかによって決まってくるため、一概に優れた魔法使いだと断定することはできないが、それでも体内魔力が多いに越したことはない。

 連続して魔法を使用したり、余分に魔力を込めることで効果を高めたりということが可能となるためである。ただし後者は魔法の秘奥とされていることも多いため、実践できるものはおろか、知識として知っている者も少なかったりするのだが。


「……発動した時の形を明確にするのに手間取ったんだ。だから余計な魔力を消費してしまった」


 自分が未熟であることの証明でもあるため、彼の口調は不貞腐れているような印象を与えるものとなってしまった。

 一方それを聞いたニアはというと、気分を害した様子はなく逆に小さく噴き出していた。


「…………」

「ごめんなさい、なんだか可愛らしかったものだから」


 無言で抗議するも、どこ吹く風だ。視線を逸らしてことさら大きな声で「はあ……」と溜息を吐く。

 このような返しをされることが予想できていたからこそ、理由を言いたくはなかったのだ。正確にはそうした態度が「可愛い」と言われてしまう原因なのだが、二十歳にもならない若造の身ではそこまで気を回すことができていないようである。


 余談だが、一般的に男は弱みを見せることも見せられることも敬遠する傾向があるのだが、女性の場合は見せることはともかく、見せられることには肯定的であることが多い。

 ある学説によると、弱みを見せるということは信頼に繋がる行為であるためだとしているが、それが男女の性差による受け入れ方への違いにどう関わってくるのかという肝心な点については明らかにしていない。

 付け加えるなら個人差もあるので、女性の方が男性よりも信頼を得やすい、などという簡単な話ではないことだけは確かなようである。


 閑話休題。

 ところで、ディーオが魔力を余分に消費してしまう程に〈裂空・割〉の形を明確に思い描けなかったことにもまた理由がある。

 言うまでもなく〈裂空・割〉は〈裂空〉の派生形であり、ディーオが作り出した新たな魔法ということになる。そして使用する前に本人が言っていた通り、実戦で使用したのは初めてのことだった。


 そんなただでさえ重圧がかかってしまう時に、彼はなんと練習時とは異なるやり方でこの魔法を発動させようとしたのである。


 通常の〈裂空〉の場合も同じなのだが、それまでディーオがこの魔法を使用する時には、人差し指と中指の二本を伸ばして腕を振るうという動作を伴うようにしていた。

 こうすることで範囲や対象を明確にし、魔力の無駄をなくしていたのである。〈裂空・割〉の場合、本来は連続して腕を振るうことで続けざまに〈裂空〉を叩き込むという形のものであった。


 もう一つの派生魔法の〈裂空・環〉が周囲を一掃する広範囲に特化したものであるならば、〈裂空・割〉は強敵を屠るために開発された単体攻撃に特化した魔法だったのだ。


 さて、問題の今回だが、ディーオは普段行っていた動作を省いていた。なぜそんな危険を冒したのかと言えば、相手が新型のゴーレムだったからである。

 より具体的に言うならば、どんな未知の攻撃手段を持っているのか分からないことを警戒したのである。

 練習通りに〈裂空・割〉を使用すれば、魔法の発動から敵が細切れとなって戦闘不能に陥るまでに、間が生じてしまう。それは本当に小さな隙間程度のものなのではあるが、それでもディーオは相手に反撃の機会を与えるかもしれないことを嫌ったのだ。


 その結果、一瞬で勝負を付けられるように複数の〈裂空〉が同時に発動することを思い浮かべようとしたのだが、上手くいかなかったというのが事の真相なのであった。


弱み云々については、特に何か資料を調べたという訳ではありませんので、アバウトに捉えて頂ければと思います。

また、性差として述べていますが、それによって性差別を助長するものではないことも、重ねて記しておきます。


まあ、誰も本気にしないとは思いますけどね(苦笑)。

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