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ポーターさん最強伝説  作者: 京 高
番外編

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4 おびき寄せる

「ば、バカな!?それだけの炎に巻かれていながら、どうして平然としていられるんだ!?」

「それ以前に私の魔法は確かに心臓のある位置を貫いたはずです!あれで生きていられるだなんてあり得ない!?」


 余程先の一撃に自信を持っていたのだろうか。一団の者たちは未だ燃える炎に包まれたままのディーオの姿に大きな衝撃を受けていた。

 一部の者などは既に発狂寸前のように意味不明な叫びを上げ続けており、他にも現実逃避のためなのか虚ろな目をして小声で小さくぶつぶつと何やら呟いている者まで出ている始末だった。


 もしもこの時点で止めを刺すなど何らかの名目で彼に接近していたならば、身体全てを覆うように燃え盛る炎という見た目に対して、全くと言って良い程熱を感じることがなかったことに気が付いたかもしれない。


 そう。ディーオを取り巻いている炎は魔法の副次効果で発生したものではなく、それらしく再現された幻影、つまりは彼が見せている姿と同質のものであったのだ。


 止める者がいなかったために悪ノリしたディーオとニアの二人がとことんまでこだわり抜き、大量の魔力と迷宮の力を無駄に使いこんで作り出された彼の幻影は、外部から受けた影響を逐一やたらと現実的に反映するよう仕組まれていたのだ。


 そのため、刃物で攻撃されれば四肢が飛んだり血飛沫が吹き出したりするし、鈍器で殴られればぐしゃりと潰れてしまう。

 氷漬けにされもすれば、今のように炎に巻かれているようにも見せることができるようになっていたのだった。


 もっとも、作成した際さすがに気持ちが悪かったのか、傷口が開いたり内臓が飛び出したり、または焼けただれたりといった極端にグロテスクな表現はしないようになっていた。


 ところが、冒険者の一団にとってはそうした部分が一向に堪えていないように見えてしまい、不安と困惑を大きく後押しすることに繋がったらしい。

 いわゆる手を抜いた部分が最も恐怖を与えることになったことに、ディーオもニアも内心では複雑な心持ちとなっていたのであった。


 そうした自分たちの心境はさておき、このままでは碌に会話すらままならないと判断したディーオは、指を弾いて鳴らして炎の幻を消し去る。

 余談だが、指を鳴らすという行為自体には何の効果もなかったりする。見ている冒険者たちに分かりやすくするため、という意味合いはもちろんあったが、一番の理由は格好をつけてみたかっただけなのであった。


「ちっ!人外じみたことをしやがって。……どうやらダンジョンマスターになったっていうのは本当のことだったようだな」


 一人がそう言った瞬間、残る一団の者たちもディーオを睨みつけてくる。

 ダンジョンマスターであれば自分たちの理解が及ばぬことがあったとしても当たり前だと考えたのか、それとも錯乱したように見せかけていただけであったのか。


「ようやく分かったのか。……だが、まあ、今更の話だな。問答無用でいきなり攻撃を仕掛けてくるような相手に胸襟を開いてはなしができるほど、俺はできた人間ではないからな」


 実のところは、この連中が突然攻撃してくるというのはほとんど予想通りのことであったのだが、わざわざこちらの内情を語ってやる必要はなく、またそうした方が都合が良さそうだということもあって、先の攻撃によって決定的な対立関係となったと思い込ませることにしたのだった。


「臆病者が。それなら言わせてもらうが、迷宮の深層なんていう突然現れておいて警戒されないとでも思っていたのか?数多くの冒険者が入り込んでいる中層までとは違って、どんな罠が仕掛けられているかも分かりはしないこの場所でだ」


 その言葉は理に適っているように聞こえなくもないが、実のところは単なる詭弁である。

 それどころか、いきなり罵倒してきた冒頭の部分とは見事に食い違うという破綻度合いであった。


「それなら逆に聞くが、罠を用心したという言い分だが、それがいきなり攻撃を加えてきたことにどう繋がる?本当に偶然鉢合わせただけという可能性すらあったんだが?」


 ディーオが鼻で笑いながらそう問い返してやると、案の定それよりまともな言い訳を見つけることができずに悔しそうに口を噤むだけだった。


「だが、お前たちとは違って俺は優しいんでな。こちらの要求を素直に飲むのであれば、迷宮から脱出させてやらなくもないぜ」


 そう言ってニヤリを笑う。見る者によっては、とんでもなく不利で危険な契約をそうと悟られないように持ち掛けてくる悪魔のように思えたことだろう。

 それ程までにこの時のディーオは、害意を剥き出しにしたまま狡賢い表情を浮かべていたのだった。


 そして腐っても高等級冒険者の地位に手が届きかけている面々だ。そうした悪意にはしっかりと敏感であった。

 全員揃って訝し気どころか明らかに怪しんだ顔つきとなっていた。

 もっとも、そんなことはディーオも織り込み済みだった。むしろわざと危機意識を煽ったとも言える。


「ふっ。言ったはずだ、俺はダンジョンマスターだとな。入口に置かれた『親転移石』と繋がった『子転移石』を設置するくらい、朝飯前の簡単な作業でしかないんだよ」


 これは本当のことで、やろうと思えば瞬き一つをする時間で『子転移石』を呼び出し、十拍程度で『親転移石』と繋げることができた。それだけではなく、片道のみ一度きりの移動という制限こそあるが、別の階層に置かれている『子転移石』へと接続することすら可能なのである。


 その有用性は計り知れず、『異界倉庫』や『空間魔法』といった得意で便利な能力を持つディーオにして、「迷宮の力っていうのは反則級のものばかりだな……」と言わしめる程であった。

 もっとも、直後にその呟きを聞き留めたニアから「あなたが言わないで」と鋭い突っ込みが入ったのだが。


 閑話休題。この提案には心惹かれるものがあったようで、怪しみながらもこちらの出方を伺うような雰囲気へと変わっていた。

 それも当然と言えば当然のことだ。彼らにはディーオの〈収納〉のように残りを気にすることなくいくらでも放り込めるようなアイテムボックスの持ち合わせもなければ、〈障壁〉結界のような安全を確保できる術がないのだから。


 ディーオによって迷宮の踏破が成し遂げられている以上、安全で確実にこれまでの成果を持ち替えることに思考が向いたとしても不思議ではない。

 が、彼らはここで意外な動きを見せることになる。


「答えは、これだ!」


 ふいに数人がディーオへと駆け寄ると、手にしていた得物でそれぞれ攻撃を行ったのだ。ある者は心臓のある位置を貫き、ある者は頭をかち割る。そして止めとばかりに首を切り落としたのだった。


「いくら化け物でも、ここまでやれば生きてはいられないだろう」


 まともに反応もできずに死ぬことになったと思い込み、嘲笑する一団の者たち。その視線の先では、頭をなくしたディーオの幻が噴水のように大量の血を吹き出していた。


 ちなみに当の本人たちはというと、さすがに作り込み過ぎたと顔色を悪くしながらその光景を見ていた。

 それを受けて床へと転がった幻も顔、をしかめてげんなりとした表情を浮かべるという、事切れる寸前の顔とは似つかないものとなっていたのだが、勝利を疑っていない連中が気付くことはなかったのだった。


「あくまで逆らうということだな。良いだろう。最下層にまでやって来ることができたら俺自ら直々に相手をしてやるよ」


 首無し状態となった幻影を消して、今度は声だけを響かせる。


「ああ、だが一つヒントをやろう。次の階層の下へと降りる階段は、真っ直ぐ正面の中央の池、その更に中心にある小島にある。ハイオーガを始めとして多数の魔物が生息しているから、用心して進むことだ」


 ある意味一番の用件を一方的に告げると、ディーオは幻と同時に意図的に発生していた気配を消し去ったのだった。


「こちらの誘導に従ってくるかしら?」


 謎板を通してどこか怯えた様子で周囲を伺っている一団の者たちを見つめながら、ニアがポツリと疑問を呟く。


「俺を殺すことができなかったことは理解しているはずだ。だから従うより他ないだろうさ」


 また、『転移石』を自由に動かすことができると示唆したことで、既に退路が断たれていると考えているだろう。

 現時点で彼らにとって最も勝率が高いのは、可能な限り疲労や消耗を減らしつつ、短時間でディーオたちがいる最深部へと辿り着くことなのだ。


「それで、本当に相手をしてやるつもり?」

「まさか!到着するよりも先に撃退させてもらう」

「……殺すの?」

「いいや。ただし、死んだ方がマシという目には合わせるつもりだけれどな。せっかく作った幻影の技術なんだ。もっと活用してやらなくちゃ勿体ないないだろう」


 ニヤリと笑うディーオは悪戯心満載の顔をしており、それを見たニアはこれから死地へと向かうことになる冒険者たちに対して、こっそりと「ご愁傷様」と呟いたのだった。


 ディーオの予想は正しく、一団は少しの話し合いの後三十五階層へと降り立ち、更には彼が伝えた通り階層の中心へと向かって足を進めていった。

 そして数日間かかっていたこれまでの階層とは打って変わって、わずか数刻で下りの階段へと到着することになったのだった。


 これには木々が切り倒されて足場は悪いものの道のようなものが形作られていたことが大いに影響していたのだが、その原因を作った二人はそのことをすっかり忘れており、


「どうして俺たちが踏み込んでいない側の森にも、同じような道ができていたんだ?」

「森を通り抜けやすいように、ハイオーガたちが真似て作ったのではないかしら?」


 などと見当違いのことを話し合っていたのだった。


 そしてその後、一日をかけて三十六階層を踏破した一団は、ついにディーオたちがドラゴンと激戦を行った三十七階層へと駒を進めることとなる。

 そこに途轍もない程凶悪な罠が仕掛けられているとも知らずに。


 三十何階層へと降り立った者たちが目にしたのは、あの日二人が目にしたものと同じく、絶望の象徴と呼ばれることもあるドラゴンの姿だった。


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