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ポーターさん最強伝説  作者: 京 高
十五章

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6 再会した二人

「先に言っておくけれど、私を模して迷宮が作り出した何かと言う訳ではないわよ」


 本物かと問おうとした矢先にニアらしき人物から答えを発せられてしまう。的確にこちらの行動を先回りされてしまい、ディーオは「ぐう……」と呻き声を上げながら開きかけた口を閉じるより他はなかった。

 そして、このやり取りで彼女が本当に本物のニアだということを確信する。

 何とも妙なことではあるが、迷宮内は元よりマウズの町でもほぼほぼ四六時中一緒にいた二人だ。他人から見れば良く分からない何気ないことでも、感じ取ることができる何かがあったのだろう。


「私が本物だと分かった割には、それ程ショックは受けていないようね」

「そう、なのか?これでもそれなりに驚いてはいるし、ショックを受けてはいるんだがな」


 彼としては特に感情を隠そうとしたものでもないので、ニアからの指摘はそれこそ驚きであった。


 余談だが、ディーオとてどんな相手にも素をさらけ出している訳ではない。特に向こうが一方的にこちらのことを知っている場合は、彼のことを利用しようだとかアイテムボックスを奪おうといった下心や悪意満載である事が多かったために警戒するようになっていた。

 もっともこれにはライバルでもあり親友でもあり、そして何より兄貴分であったブリックスが繰り返し言い聞かせた結果でもあったのだが。


「余り表情が変わらなかったのよ」

「そうだったのか?」


 再度ニアに言われて頬に手を当ててみると、若干表情筋が強張っているような気がしないでもない。要するに、よく分からないのであった。

 ただ、驚きだけに心が満たされなかった理由は察することができていた。


「驚いたのもあるが、それ以上にニアのことを見つけることができて安心したからかもな」


 一時は生きてはいないかもしれないとまで考えてしまった程だ。こうして顔を見合わせることができただけでも安堵感が湧き上がってくるのが分かる。

 とはいえ、あちらは彼のそんな内心を見通している訳ではない。唐突な心情の吐露にすっかり顔を赤らめてしまっていたのであった。


「……ディーオのそういう突然なところって本当にズルいわよね」

「おいおい。どうして素直に感想を言っただけで避難されなくちゃいけないんだよ……」

「何でもかんでも口に出せばいいっていうものじゃないからよ!」

「俺だって相手に合わせて言葉を選んでいるつもりだ」

「だから!そういうところがズルいっていうの!」


 と、売り言葉に買い言葉の要領で次第にヒートアップしていく二人。傍から見ればいきなり痴話喧嘩を始めたように見えたことだろう。

 迷宮の奥深くであっても止める者がいなかったこともあり、二人のやり取りは普段と変わらないままであった。


「で、そろそろいきなり姿を消したと思ったら、こんな場所に居たことの説明をして欲しいんだが?」

「突然いなくなったことは認めるし、悪いと思っているけれど……、あなたの話の持って行き方も大概にいきなりだったわね」


 話を切り出す糸口を探っていたのだが、どうにも上手く見つけることができずに、結局ディーオは会話が一段落した際に単刀直入に聞いてみることにしたのだった。

 そして即座にダメ出しをするニア。すっかり平常運転である。


 だが、そんなわずかな対話の中からもディーオは、ニアにとってもあの行動は不本意なものであったと勘付いていた。


「迷宮の仕業か」

「半分はね。もう半分は明らかに私自身の意志よ」

「そう言い切れる保証はなんだ?」

「そんな確かなものがある訳じゃないわ。あえて言うなら私がこうしてここにいることこそがその証明ということになるのかしらね」

「やけに哲学的だな」


 その時ディーオの頭に浮かんできたのは、異世界の有名な一説だった。

 が、当然それが伝わるはずもなく、茶化されたように感じたのかニアは軽く肩をすくめたのだった。


「煙に巻いて誤魔化すつもりはないわ。ただ、そうとしか言いようがないのよね」


 意志のような主観的なものを本人以外が見抜く術などそうはない。しかし本人に気が付かないように思いこませる術というものはいくつも存在する。

 ましてや相手は人知を超えた存在である迷宮なのだ。不安感が拭いきれないどころか逆にまとわりついてくるように感じられたとしても、誰も彼のことを臆病者と(そし)ることなどできないだろう。


 だが、そこを突いたところで話は平行線だ。それで終わればまだ良い方で、感傷的になってしまうことで交わるどころかそれぞれが明後日の方向へと向かって進み出しかねない。

 そうなってしまえば二度と話し合いの機会など生まれることはない。そうした状況になることだけは避けたいと考えたディーオは、最終的には不安に思いながらも彼女の主張を受け入れることにしたのだった。


「さてと、何から話したものかしらね。……ああ、そういえば!ディーオ、あなた様子が全く分からないのに飛び出すなんて無茶し過ぎよ!そりゃあ、あの状態でいたところで身動きが取れないままだというのは理解できるけれど、それにしてももう少しやりようというものがあるでしょう。お陰でこちらは碌に調整もできないままミミックリースライムを送ることになってしまったわ!」


 事情の説明をしてくれるのかと思いきや、始まったのはダメ出しとそれに付随する愚痴であった。

 そしてニアの言葉の通りであれば、あの最弱擬態生物(ミミックリースライム)なる魔物は彼女の差し金であったようだ。

 まずは情報収集が先決だと考えていたディーオもこれには黙ってはいられない。


「いくら何でも、魔物を差し向けてくることはやり過ぎじゃないのか?」


 どう言い募ってみたところで魔物は魔物だ。危険であることに変わりはないのである。

 それは例え低階層にのみ出没する「群れるだけしか能がない」とすら言われるダークゴブリンであっても、まともな攻撃手段を持たないミミックリースライムであっても同じなのだ。


「私が指示したのは姿を変えて脅しをかけることだけ。そうすればいくらディーオでも一旦下がらざるを得ないはずだと思ったの。実際それまでは威嚇するようなことはあっても直接害するような動きは取っていなかったはずよ」


 振り返って考えてみれば、確かにニアの言う通りで、通路を塞いで先には行かせないようにはしていたがそれだけだったようにも思える。


「ところがあなたときたら引くどころか問答無用で攻撃を始めるのだもの。いくら強制力が働くとはいっても命の危機に瀕してしまえば解けるのは当たり前の話だわ」


 これもまたその通りで、先手必勝でこちらから手を出したのだった。

 思えば敵が明確な攻撃性を示したのはそれから後のことだったような気もする。もっとも戦闘力は皆無であったため、まともな戦いにすらならずに消滅していってしまったのだが。


「そうは言うが、俺にとっては未見の魔物だったんだぞ。引いたところでどうにかなる保証もなかったし、それならいっその事切り伏せて押し通る方が安全というものだぜ」


 暴論のように聞こえるかもしれないが、魔物は生きている限り脅威として有り続ける。そのため、こうした「殲滅してしまえば問題ない」という意見もまた一理あるものなのである。

 余談だが、やはりと言うべきか特に騎士や兵士、そして冒険者といった魔物との命のやり取りをする機会が多い者たちに、これらの考え方が浸透している傾向にある。


 ニアもまた冒険者としての経験を積んできているので理解できなくはないのだが、実はそうして時間を稼いでいる間に色々と準備を終えてしまおうと画策していたこともあって、どうしても否定的な見解となってしまっているのだった。


「本当にあなたときたら迷宮の意図を潰すことにだけは長けているのだから。いざこちらに立ってみればやり難いったらないわ」

「……ただの興味本位でしかないんだが、あの擬態スライムを本当はどう使うつもりだったんだ?」

「私に似せた体形にして離れた位置から間違った方向へ誘導させるつもりだったわ」

「間違った方向?」


 と、この階層に到着してからこの場所に至るまでの道順を思い浮かべてみる。


「間違った方向も何も、どう思い返してみても一本道だった記憶しかないんだが?」

「……それも全部これから手を付けようとしていたところなのよ」


 ディーオの言葉にむすっとした顔で答えるニア。どうやら大した時間を置かずにあの場から移動を始めたことが、彼女の計画にとって致命的な大打撃を与える要因となってしまったようである。

 別段悪いことをした訳でもないのだが、不貞腐れたような表情を見ると申し訳ない気持ちになってくるのだから不思議なものである。


 それにしても今のさりげない一言の中にとてつもなく重要な情報を放り込んでくるのだから、狙ってやっているのだとすれば恐れ入る芸当である。


「なあ、一つだけ聞かせてくれないか。いつからニアはダンジョンマスターになったんだ?」


 迷宮に手を加えることができる存在など、迷宮そのものを除けばダンジョンマスターと呼ばれるもの以外にはない。


「あら、一体何のことかしら?……なんて言って誤魔化されてはくれないわよね」

「元々誤魔化す気もない癖に良く言うぜ」

「そうでもないわよ。だってあれで誤魔化されてくれるのであればこの後の展開が楽になるというものでしょう。まあ、実際のところはそんなことはなかったのだけど」


 くすりと笑う彼女だったがその一見分かり易い表情に対して、頑なに本心を見せようとはしていない。それは出会った当初から何故か明け透けな態度を取られていたディーオが、始めて見ることになった一面でもあった。


「それでダンジョンマスターのことだけど、正式になったのはこの階層に辿り着いたつい先程のことよ。どうやら自力でこの迷宮最深部にやって来ることが、ダンジョンマスターとなる条件の一つであったみたいよ。それまでの私は仮の半端者というところだったのかしら。……いえ、精々が名前を貸しているだけの存在くらいの扱いだったのかもしれないわ」


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