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ポーターさん最強伝説  作者: 京 高
十三章

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1 共闘関係

 三十五階層へと降りたディーオたち。

 だが、これまでとは違って彼らは二人だけではなかった。

 その証拠に数多くの魔物女性たちが少し離れた場所にいたのである。その数はおよそ百。彼女たちの村で戦うことのできるほぼ全ての人数がこの場に集まっているという話であった。


「私たちが次の階層のある階段に到着するまでの時間稼ぎをしてくれるとは聞いていたけれど……。まさかこんなにたくさん集まってくるとは思わなかったわね」


 その様子に驚いたニアがむうと唸る。

 ラミアにアラクネ、ハーピーはその外見や知能などから中級以上の危険度の魔物であるとされている。その上『特殊個体』もそうだが『変異種』化した魔物というのは更に一段も二段の上位という扱いを受けるようになる。

 そんな上位の魔物たちが百にも届く数で一所に集まっているのだ。ニアでなくとも驚きの声――悲鳴や怒号であった可能性も否定できない――を上げることになっていただろう。

 むしろ散々規格外なディーオの行動を目の当たりにしてきたニアだからこそ、この程度の反応で済んでいるのかもしれない。


「何を言っている。お前たちが次の階層へと向かえなければ我らは衰退するより他ないのだ。協力するのであれば村を上げてのことになるのは当然だろう」

「まあ、そうなのだろうけれど……」


 聞きつけたラミア女性の反論に一定の理解は示しつつも、どことなく納得がいかない様子のニアである。


「そちらの言い分は分かるが、やることの内容は言ってしまえば俺たちが次の階層へ向かうまでの時間稼ぎだ。村の戦力を本当にそんなことに使ってしまっても良かったのか?」


 それもそのはずで、協力という名目だがディーオが暴露してしまったように魔物女性たちの役割は時間稼ぎ、要は囮になることなのである。

 しかもその相手は狡猾で残忍な性格に強靭な体躯を持つハイオーガなのだ。これまで彼女たちが行っていた狩りとは危険の度合いが比べものにならないはずだ。


「ふん!奴らにはこれまで散々邪魔をされてきた過去がある。存分にやり返すことができるのだから我らにとっては願ってもない機会だ」


 だが、ディーオたちの心配をよそにラミア女性は気炎を上げてそう言い切る。

 出会ってから一日程度ではさすがにそれが本心なのかどうかまでを読み解くこともできず、二人はただ彼女たちの被害ができる限り小さくなることを願うのだった。


「私としては、あなたたちの方が心配なのだけれどねー」


 と横から、ではなく頭上から口を挟んできたのはハーピー女性だ。森の外周部の様子を探りに行っていたはずだが、無事に帰って来たらしい。

 夜明け、大部屋型の階層上部が明るくなり始めてからまだそれほど時間が経ってはいなかったが、観察することに支障はないだけの光量となっていたようだ。


 見上げると数名のハーピー美女たちが腕の先をゆったりと羽ばたかせながら空中に佇んでいた。

 魔力を飛行に用いることのできる種族ならではの芸当である。


 さて、あれからしばらく色々と話し合ってみたのだが、ディーオだけでなくニアもまたこれと言って有効な策は見出すことができずにいた。

 結局、魔物女性たちが囮となってハイオーガと配下のホーンショットディアーをおびき寄せている間に、ディーオたち二人が手薄になった森の一角を一気に走り抜けるという、作戦と呼ぶにはあまりにお粗末な強硬策に出ることになったのであった。


「そうですね。いくら私たちがやつらの注意を惹き付けると言っても限度があるでしょう。それにあのハイオークたちのことですから手薄になっているというのは見せかけだけで、逆に罠を仕掛けて待ち構えているということも考えられます」


 アラクネ女性も懸念をまた口にする。こちらはディーオたちとは異なり単純に作戦の失敗を心配しているようだ。

 が、知り合って間もない相手に自分たちの命運を託すことになってしまったのだから当然の態度だと言えよう。むしろ、半ばどころかほとんど仲間扱いしているディーオたちの方が異常なのである。

 いくら彼女たちの村が存亡の危機に立たされており、そのため自分たちと共闘せざるを得ない状況だとしても警戒感がなさ過ぎる。


 もっとも、二人の無警戒っぷりが魔物女性たちの判断を鈍らせていた面があるのも事実だ。

 一見するとのほほんとしている二人の態度は、そう見えるように取り繕ったものではないかと疑心暗鬼をもたらしていたのである。

 これには〈障壁〉結界越しの先の対話も一役買っており、強者ゆえの余裕ではないかと思わせることに成功していたのだった。


 実際のところはどうであったのかというと……。

 まあ、あえて詳しくは語るまい。


「俺たちのことなら心配はいらないぞ。今回は全力で行くつもりだからな」


 そしてディーオの告げた言葉に微妙な顔をする魔物女性たち、とニア。

 前者は暗にこれまでの行動にまだ余力があったと知らされたためだが、後者は自重しないことでどれだけの被害が周囲にもたらされることになるのか予想がつかなかったがためであった。


「ディーオ、お願いだからこの階層を破壊し尽くすような事だけはしないでちょうだいね」

「いや、いくら何でもそこまで無差別にやるつもりはないからな。だが、手伝ってもらっているというのに俺たちが手を抜くような真似をするわけにはいかないだろ」

「手を抜くのと余力を残すのでは全く意味が違うと思うわよ。それに次の三十六階層については何も分かっていないのだから、その分だけの力は残しておかないと危険だわ。せっかくこの階層を抜けたとしても、次の階層で敗北してしまっては意味がないもの」


 目的はあくまでも迷宮最深部へと到達することなのだ。

 三十五階層を通り抜けるのは一つの区切りでしかない。魔物女性たちから協力を得られているという稀有な状況ではあるが、目的をはき違えてしまってはいけないのである。


「その意見には同意だ。我々が手を貸すのはお前たちが迷宮を踏破してダンジョンマスターになることができると見込んだからだ。そのための障害となってしまうのであれば、三十五階層(こんなところ)で全力を尽くすような真似はしないでもらおう」


 ラミア女性の台詞に集まっていた魔物女性たちが一斉に頷く。

 その姿に、言葉には出されることがなかったが「例え自分たちにどんな犠牲が出ようとも」という彼女たちの強い覚悟と信念を垣間見た気がしたディーオたちなのであった。そしてそれを口にしなかったのはきっと、二人に余計な気を遣わさないためなのだろうということも理解できてしまったのだった。


「……分かった。だが、あえて自分たちの身を危険に晒すような事だけはしないでくれ」


 だからこそ、あえて釘を刺しておく。「お前たちに死なれてしまうと、俺たちの負担になる」のだと明確に意思表示しておくのだ。


「まあ、そうね。私たちはまだまだ経験の浅い若輩者だから、協力者が死ぬなんて衝撃的なことが起こるとなれば簡単に我を忘れて取り乱してしまうかもしれないわね」

「そうだな。そうなると迷宮の踏破なんて夢のまた夢となってしまいそうだ」


 ニアがそれらしく言い繕ったところにディーオが悪乗りするように便乗する。

 もちろんこれが本心などではあるはずもなく。その証拠に、二人の顔は三十五階層へと降りて来てから一番生き生きとしていたのだった。

 もしもマウズの町の者たちが二人のことを見ていたとすれば、無理難題で相手を丸め込もうとする悪徳商人か何かに例えたかもしれない。


「分かった分かった。命を粗末にするような事だけはしないと約束する。これは他の者たちにも徹底させよう」


 聞きようによっては作戦を根底から覆るような言い分であったが、言い合うだけ時間の無駄だと察したのか、ラミア女性はさっさと白旗を上げた。

 その裏には、この提案が彼女にとって実は渡りに船であったという事情が存在していた。

 最適とは言わないが、今回のことがディーオたちを次の階層へと進ませるために必要なことであるとは理解していた。が、リーダーとして仲間をみすみす死地に追いやることへ忸怩たる思いがなかったかと言えばそうではない。

 命を()することへの覚悟はできている。しかし、仲間に命を掛けさせることとはイコールではなかったのである。


「お前たちの足を引っ張ることになっては意味がない。皆にはしっかりと伝えておく」

「ああ。くれぐれもよろしく頼む」


 この調子であれば、生き永らえるための努力をしてくれるだろう。少なくとも自ら進んで命を落とすような者はいないのではないか。

 先ほどの言葉は本心ではないが、完全に切り捨てられるほど達観もしてない。

 自分たちのために誰かが犠牲になったのだとなれば、それが棘となって心に刺さり続けるのは間違いなかった。

 そんな痛みを持ち続ける必要がなくなったと、ディーオとニアはそっと安堵していたのだった。


「ところで話は変わるんだが、ホーンショットディアーは美味いのか?」

「……本当に話が変わったわね。いきなりどうしたのかしら?」

「いや、ちびっ子たちを宥めるために一頭か二頭は狩っておきたいという話が聞こえたんでな。子どもたちが喜ぶくらい美味いのであれば、優先的に倒すようにするのもアリかと思ったんだ」


 〈地図〉と〈警戒〉を併用して、攻撃に〈裂空〉を使用するのであれば十分に可能であろう。


「まあ、基本的には森の奥の方に潜んでいるし、それ以外の場合はハイオーガが連れ回しているということもあって滅多に狩ることのできない貴重な獲物ではあるな」

「しかし森を一気に駆け抜けている最中に、そこまでの余裕があるでしょうか?」


 だが、『空間魔法』についてはほとんど教えていない魔物女性たちからすると、机上の空論のように聞こえてしまったようである。


「そこは出たとこ勝負になるから、はっきりとした事は言えないな。だが、敵の遠距離攻撃の手段を潰すという面から見ても意味のあることだと思っている」

「ふむ。その分だけ安全に進めるようになるということか。確かに試してみるだけの価値はありそうだ」

「でも危険だわ。そんなことをするくらいなら森を抜けることに集中してもらった方が良くはないかしら?」

「どちらにしても狙われることになるのだから、危険なことに変わりはない。それに、あんたたちに手伝ってもらえるのはこの階層だけだ。次からの階層のためにも、できる事は増やしておきたいんだよ」


 そして何より、「珍しい食材は確保しておきたいのだ!」という本心は心の中で叫ぶだけに留めておいたディーオなのであった。


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