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第十六話 旅行計画と事前調査④

 ぱーんぱぱーんぱんぱんぱかぱーん!!


 陽気な音楽が流れると、それぞれのキャラクターたちが一斉にスタートラインに並んでいる画面へと移った。このレースの勝敗で、修学旅行の自由時間はどこに行くかが決まるのだ。


「負けても文句言わないでね?」


 第一レーン。きらりと黒縁眼鏡を光らせて真心!その目の奥には絶対勝つという気合が見て取れる!


「それはこっちのセリフです! 誰が何と言おうと舞妓体験に連れていきますからね!」


 第二レーン。未プレイなのに自信だけはいっちょ前!金髪の特攻隊長メズルフが吠える!


「お前ら、こういうゲームが好きなら絶対ユニバ楽しいって! ま、俺が勝って楽しい時間にさせてやるよ!」


 第三レーン。カッコつけているつもりのカッコ悪い代表、前楽が、自信ありげに胸を張る!!


「え、えっと。それじゃ、始めるよ!」


 第四レーン。特に行きたい場所もない俺が苦笑いと共にスタートボタンを押して信号機が出現。ぽっぽっぽー!という合図と共に信号機は赤から青になると、いよいよレースが始まった!


 スタートダッシュを決めたのは前楽と真心!両者プレイしたことがあると豪語していただけはあり、スタートは完璧だ!一方勝つ気のない俺は適当に、そしてスタートダッシュの存在も知らないであろう金髪天使はのんびりとスタートラインを越えていく。


「え!? どうして!?」

「知らねぇのか?スタートの数秒前からエンジンボタンを押しておくと早くスタートできるんだよ」

「えー!? そんなの知りませんよ! ずるいですよぉ!!」

「まぁまぁ、このゲーム最下位の人の方がいいアイテムくれる補正とかあるからまだまだ分かんないよ? 頑張ろう?」

「わかりました。まだまだ負けませんよー!」


 半分涙目の天使がやる気を取り戻したころに、真心と前楽は最初の難関急カーブに差し掛かっていた。一歩遅れて俺、さらに後ろにメズルフが走っている。


「うおりゃぁぁ!」

「・・・」


 集中すると黙るタイプなのか真心は一声も発せずに華麗にカーブを曲がっていく。一方気合の叫びと共に急カーブを曲がろうと体まで曲がっている前楽の車体はその声とは裏腹にカーブを曲がり切れずにコースアウトして転落しまった。


「ああああ!! やっちまった!」

「そこはスピードありすぎるとレース外に落ちちゃうんだよね」


カーブを乗り切った真心は余裕が出たのか、横目で前楽を見つつ涼しい顔でそう言った。ゲームキャラが転落した前楽の事を下引っ張り上げている間、大してスピードを出していない俺はすっとカーブを曲がり2位へと踊りでる。俺の後ろを走っていたメズルフは前楽と同じところでコースアウトして転落していった。


「ぎにゃぁぁぁぁぁ!! 」

「ぶふっ」

 

 断末魔のような声がメズルフから上がって思わず笑ってしまった。どこから声出てるんだよ、と内心突っ込みたかったが今はレース中。ぶっちぎりで一位の真心に俺はついていく形でコースを走っていく。もう少し走っていくとそこには難しいけどうまく走れると近道になる右コースと、難易度は高くないけど右コースに比べると距離が長い左コースに分かれる場所がある。第二の難関といったところだ。


前を見ると真心は迷うことなく右のコースへ向かっていった。対する俺は、特に急いでもいないので左のコースへと向かう。後を追うように前楽が右のコースへと向かい、メズルフもコースの中身など知らないからだろう、そのまま前楽についていった。


もちろん、あの変な断末魔がすぐに響いたのは言うまでもない。


「ぎにゃぁぁぁぁ!! また落ちましたぁぁ!!」

「そりゃそうだ。こっちは結構難しいぞって!? ああああ俺も落ちたー!!」

「た、楽しそうだね」


だが、ここで意外だったことが一つ。


「あ」


小さな声を漏らしたのは真心。ショートカットをしようと危険な道を選んだ筈の車体はあっけなくコースの外へとストンと落ちていった。自身でも予期していなかったであろう凡ミスが発生したことを周りはやんやとはやしたてた。


「まこまこがミスりましたー!!」

「今だ!! 今しかない!!」

「あっ!! ちょっとぉ!!」


隣のコースで激しいデッドヒートを繰り広げる中、俺はただ1人のんびりと緩いコースを走り抜けていた。しばらくすると2つに分岐した道が合流する。向こうの道の方が短くて3台は俺より早く通過する予定なのに、合流地点にさしかかると2つの車体がそこにはあった。しかも、こともあろうか、その車体は俺の後方についたではないか。


「え!?  嘘でしょ!? 祈里が一位じゃない!?」

「これは飛んだダークホースじゃねぇか!!」

「あ、あはは」


凡ミスは一回だけじゃなかったようだ。まさかの俺が一位を走行してしまっている。


「やばいやばい負けちゃう!!」

「いや、まだだ!この距離なら誰が一位になってもおかしくねぇ!!」


3体の車がほぼ横並びになり、あとは直線を駆け抜けるだけ。俺の車体は右から真心、左から前楽に挟まれ一直線にゴールへと向かっていた。


「いっけー!!!」

「うおりゃぁぁぁぁ!!」


白熱した真心と前楽の熱い声に挟まれた俺は、真心か前楽のどっちが勝つだろうかと目を細めていた。ところが、ゴール直前でそれは起こった。


団子状態の俺ら3人の車体の上に突如としてお邪魔アイテムの雷雲が出現。

どんがらがっしゃーーーん!!という音を立てて、大きな雷が落っこちた。


雷に吹き飛ばされた俺たち3人をくぐるようにして、一台の車が追い越すさっそうと追い越していった


「え!?」

「はぁ!?」


優勝争いとは縁遠いと思われたメズルフがアイテムの力で俺らを蹴散らして見事ゴールテープを切ったのだった。


「やりましたぁぁぁぁぁぁああ!!!」

「う、うそだろ!? 明らかに初心者の動きだったのに!」

「初心者のメズルフに負けるなんて、私の完敗ね」


両腕を上げて喜ぶメズルフに前楽と真心が肩をすくめて笑っている。

どうやら長引いて仕方がなかった俺たちの自由行動は京都の舞子体験で決まったようだった。



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