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第十六話 旅行計画と事前調査③

 放課後、俺とメズルフは客人を招くべく真っ直ぐに家に帰り茶菓子の用意をした。


--ピンポン


 チャイムは思いの外、すぐに鳴った。インターホンを確認するともちろん前楽と真心がいて、真心は軽く手を振ってくれた。


 すぐさま玄関へと向かいドアを開くと、2人とも何やら紙袋を携えている。


「これ、ちょっとしたお菓子なんだわ。後でみんなで食べようぜ?」

「わぁ!ありがとう」


 前楽はそう言うと手に持っていた紙袋を俺に手渡した。中にはパウンドケーキと書いてある箱が入っているのがチラリと見えた。


 真心は俺の後ろからついてきていたメズルフに向けて紙袋を突き出した。


「私に、ですか?」

「うん。日曜日に売り子手伝ってくれたお礼」

「………売り子?」

「わぁ! な、なんでもないですから! まこまこ、ありがとうございます、後で見て見ます!」

「隠す事無いのに、とっても可愛かったわよ?」

「可愛い? お前ら日曜日何してたんだ?」

「な、なんでも良いじゃないですか! まこまこ! 揶揄わないでくださいよ」

「はいはい。分かったわかった。ま、そう言うわけだから、聞きたかったらメズルフに聞いてくださいな」

「答えません! もう。ほら、修学旅行の計画立てる時間なくなりますよ?」

「あー……うん。そうだね、2人とも上がって?」

「??」

「ふふっ、おじゃまします」


 意味がわからない俺と前楽は首を傾げながら、そして真心はニヤニヤとメズルフの後ろを着いて家の中に入っていった。そのまま、以前BLゲームをやったリビングに移動すると、メズルフと真心は早速ソファを占領した。女の子二人の間に座りに行く勇気がなかったのか、前楽はどこに座ろうか迷っていたのでテーブルの横に座布団を出してあげると、困った顔で笑いながらその座布団を受け取って、机を取り囲むように座った。



「さて、4人揃った所で、話し合いの続きをしようか」


真心が鞄からプリントを取り出した。このプリントを明日の朝には提出しなくてはならない。だが、やはり、未だ俺たちのグループのプリントは真っ白だった。


「ざっくりと授業中の話を纏めると、オタロードに行きたい私。USJに行きたい楽。京都を周りたい祈里と舞子体験したいメズルフ。ホテルは丁度大阪と京都の中間くらい。さて、どうやって決めようか?」


真心はそう言って俺たちを見渡した。


「まずさ、修学旅行だからさ、みんなが楽しめる方が良いだろ? 趣味が偏ってる場所は個人で行くべきだと俺は思うんだが」


先制を切ったのは前楽だった。明らかに個人の趣味を丸出しにした真心に対しての牽制だろう。


「そうとも限らないわ? そもそも、私一人で楽しもうとなんて思ってないの。メズルフは絶対気に入ってくれると思うし、こんな場所だってあるんだよ」


そう言って、前楽の前にとあるチラシを繰り出した。


「こ、これは!」

「メイド喫茶よ。可愛いメイドさんが沢山出迎えてくれるの! 秋葉原とかにもあるけど、関西のメイドさん、見たくない?」


とても可愛いメイドさんの写真つきチラシに俺の鼻の下が伸びていく。明らかに心がメイド喫茶に傾いて行ってる。だらしない自分の顔に嫌気と嫌悪の気持ちが湧き起こった。


「……最低」


つい口に出して呟くと、前楽はハッとした顔でこちらを見た。メズルフも同じ気持ちなのか、俺とメズルフからの冷たい視線が前楽につきささった。


「い、いや。その、違うんだ」

「何が違うんですか。鼻の下伸ばして」

「の、伸ばしてない」

「伸びてたよ」

「う……。……やっぱりやめようぜ。楽しそうなのは分かったけど、……その後が怖い」

「えー! 絶対楽しいよ?」


真心が前楽の説得に失敗したところで、ここからは前楽の主張が始まった。


「楽しいといえばやっぱりUSJだと思うんだよ! みんなが楽しいUSJ!」

「いや、楽しいって言うけどウチ、乗り物苦手なのさ。ジェットコースターとかの怖い乗り物はそもそも乗りたくないのよ」


真心は困った顔をしている。


「ちっちっち! USJは別に乗り物だけじゃないんだ。可愛い展示物はその場所場所の世界観を楽しめるんだぞ!」

「確かに楽しそうですね」

「お、メズルフも興味湧いてきたか!? そしたら過半数狙える!」

「いいえ! 私は舞子体験がしてみたいので仲間にはなりません!」

「舞子体験、俺なにすればいいんだよ」

「男性用の衣装もあるようですよ? これを着てみんなで写真撮影をするんです」

「メズルフも祈里も元から綺麗だからいいかもしれないけど、私が舞子着ても……」

「真心だって可愛いと思うよ?」

「そう思えたらいいんだけどね」

「とにかく、大阪方面か京都方面かだけでも決めなきゃ」

「困ったね」


一通り意見や主張は出たが結局のところ、全員が納得する議論にはなかなかならなかった。


「いっそのこと何か勝負して勝った人が決めるってことでどうかな?」


話が平行線を辿っている3人を見かねた俺は肩を竦めてそんな提案をしてみた。


「勝負ってなにで?」

「じゃんけん? あみだくじ?」

「えー。もっと実力が左右するものがいいです」

「実力が左右するもの? ……ゲームとか?」

「いいね! 祈里の家、ソフトなにがあるの?」

「4人でできるのは、大乱闘できるのとかレースできるのとか」

「比較的フェアなのはレースの方かしら?」

「おお! いいじゃねぇか! コレならUSJに決まりだぜ!」

「ウチこのゲーム得意なの、それでもいい?」

「かかってこいや!」

「えっとー……ゲームはあまり得意ではないのですが……まぁ、いいですよ! 修学旅行の自由行動を決めるバトル! 勝っても負けても恨みっこなしです!」


祈里の家にあるレースゲームで勝敗を決めることに全員が納得してくれたようだった。

俺はゲーム機とコントローラーをささっと取り出して全員に渡した。


「いい? 1位になった人の行きたい場所についていく!」

「オタロードに決まっても文句言わないでね?」

「ああ、負けたら流石に文句言えねぇぜ」

「絶対舞子体験を勝ち取って見せます!」


それぞれが各々好きな車体を選び、スタンダードなコースを選択した。

あっという間に戦いの舞台は整った。


仁義なき戦いが今、繰り広げられる!



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