第十六話 旅行計画と事前調査②
「参りましたね」
「あぁ、参った」
「どうしよう」
「うーん、やっぱりじゃんけん?」
午後の授業、俺たちは揃いに揃って悩んでいた。他のグループは話し合いを順調に進めているように見えるのだが、俺ら4人、いや、3人は揃いも揃って行きたいところがバラバラだった。
「京都! 京都がいいです! 舞妓体験がしたいですー!」
「大阪日本橋に行きたいの。なかなか行けないから、ね? お願い!」
「いやいや、それはないだろ。まぁ、祈里の舞子は確かに見てみたいけどさ、やっぱり関西って言ったらUSJ一択じゃねぇの!?」
こうもバラバラな上にお互いが一歩も譲らないグループなんてあるだろうか。俺は一度USJには行っているし、真心が行きたがっている大阪日本橋とやらは残念ながらどんな場所なのか知らない。かと言って舞子体験に行くとなれば女装するのは俺だ。気乗りしない。
「え、えっと。皆、もう計画書プリントの提出期限も近いことだしさ、五重塔とか行かない?」
無難というか、一番メジャーな場所を推薦してみたが、乗ってきたのはメズルフだけだった。
「五重塔だったら、歴史的建造物枠で行けますよね! そうしたら舞子体験できる店まで近いです! どうでしょう?」
「だったらさ、歴史的建造物枠は大阪城でもいいじゃない? そこからオタロードになら1日で回れるもの」
「オタロード?」
「そう、大阪日本橋にあるオタロード! 大阪でオタクの聖地って言われているらしいの! 絶対行ってみたいのよ」
「…………いや、それは個人的にいけよ!」
「関西までなんてそうそう行けないから行きたいんじゃない!」
「それに大阪城っていうならUSJだって県内じゃねぇの?」
「結構、距離あるよ? それに乗り物で並んでる待ち時間がもったいないじゃない」
「待って乗るからまたいいんじゃねぇか」
「もう、いっそ別行動する?」
「ダメですよ。要所要所でグループ全員がいるか先生たち見張ってるって噂です」
「やっぱりジャンケンする?」
「それもなんかなぁ」
と言った具合だ。さっきからこんな感じで話し合いはなかなか進んでいない。
それどころか平行線を辿ることもう30分以上経過している。それはつまり、もうすぐ午後の授業が終わってしまうことを指していた。
キーンコーンカーンコーン……
授業終了のチャイムがなって数分後、職員室に言っていた担任が、立て付けが悪い教室のドアをガラガラ開いた。すると他のグループの人たちが一人、また一人と計画書を先生に提出しに行っている。どうやら全くの白紙状態のグループは俺らのグループだけのようだった。
「他のグループは? まだのようだな。提出は明日までだから、放課後集まってでも今日中に仕上げるように。いいな!」
「はーい」
やる気のない返事がクラスの端端からあがった。
「どうする?」
「……しかたがないわね。今日の放課後集まりましょ?」
「そうですね。それしかありません。図書室とかでやりますか?」
「うーん、ウチ的には祈里の家がいいかな? いったらダメかな?」
「え?! いや、まぁいいけど。どうして?」
「メズルフにちょっと渡したいものがあるのさ」
「渡したいもの?」
「あー……もしかして日曜日のですか?」
「日曜日?」
そういえば俺がテスト勉強をしている時、メズルフは真心とどこかに出かけると言っていた。日曜日になにをしていたのか俺は全く知らなかった。
「まぁ、別にたいしたものじゃないんだけどね」
「ふーん? まぁ、いいよ。あとでうちに集まろうか」
「わかった! じゃぁ、またあとでな!」
「楽さん、すっぽかさないでくださいね?」
「さすがにねーよ!」
こうして今日の放課後はみんなが俺……じゃなかった祈里の家に遊びに来ることになったのだった。




